如月シンタローくんはあまりデレない?



マウスの小気味いいクリック音と、ヘッドフォンから流れだす流行り風のメロディのみが俺には聞こえている。
クリック音とメロディだけが。

「ねぇシンタローくん」

だけが……。

「……」
「ねぇシンタローくん?」
「……なんですか? カノさん」
かっちょいい入りを邪魔されたことに少しの苛立ちを感じながらヘッドフォンを外し、邪魔をした張本人に応える。

「今、なにしてるのかな〜って思って」
「……曲つくってますけど」
正確には、ました だ。ついさっき妨害が入ったから。
「そっか〜、シンタローくんと喋れて嬉しいな」
「はい、邪魔しないでくださいね?」
ヘッドフォンをつけ直して、いざ再開。

「ちょっとご主人!!」
「うわああ」
イキナリの大音量に腰を抜かす俺。
「せっかく! このろくでなしでコミュ障、
しかも! まとも働かない上に、つくった曲も微妙な良いとこなしの、この! ご主人に! 興味を持って話しかけてくださるお方がいるんですよ!! なんで取り合わないんですか!?」
わざわざコミュ障、良いとこなしを強調して、青い画面の向こうから言ってくる。

エネのその一言一言がぐさぐさ胸に響く。 クリティカルヒット連発!って感じだ。
だが、それを言われてもなお!

「そう言われてもな! エネ、ここ3日ぐらいカノさんあん なんだぞ!」
「ここ3日ぐらいあんなんとは?」
「だから! カノさんがずっと俺にまとわりついてるワケ! しかもやばい方向にだ!」
「あぁ…そのことですか。寧ろずっと前からご主人にまとわりついてましたけどね……」
「今、なんて言った? どういうことだ、エネ!」
すると、言うが早いかエネはデスクトップから消えてしまった。
背後に感じるはカノさんの視線。

はぁ……、今日の曲作りは中止!
こんな微妙な気持ちでいい曲なんて生まれそうもない。
パソコンをシャットダウンさせ、ヘッドフォンも外す。
「カノさん! 明日からはくっつかないでくださいね?」
…相変わらずカノさんはニコニコ顔だ。

[newpage]


……そして次の日。なんとカノさんは、俺にくっつかなくなっていた!

いそいそとパソコンへ向かう俺。
よし、やるぞ。と無駄に呟いてみたりもしたが……誰にも邪魔されなかった。

というか、俺がカノさんを見かけることが無くなった!
感動。

いい曲ができそうだ。


またまた次の日。
今日もカノさんを見かけることはなかった。

いつも居た人がいないというのは、少し違和感があるようで、あまり曲作りは進まなかった。

その次の日も。

エネすら作業中、前みたいに怒鳴り込んでこないし、快適、快適。

そのまた次の日も、次の日も……。

[newpage]


で、今日はメカクシ団のアジトにいるんだが……。
相変わらずカノさんの姿が見えない。
別にカノさんのこと気にしてる訳じゃないけど
見かけないっていうのも、くっつかれる同様あまり嬉しいと感じることではなかった。

「あの…キドさん?」
「…ん?」
思わず話しかけたけど、どうしてだ、俺。
「あ、あの……カノさんって今、どこに居るのかなーなんて、ははは」
ははは、じゃねぇ!
「ん? あのばかが気になるのか?」
「い、いや別にカノさんがいないから寂しいとかじゃなくて、その……最近見かけないんで、何してるのかな〜とか思って…」
ツンデレてる台詞を俺が言っても仕方がないのにああ、くそ!これじゃあカノさんが気になるみたいな言い方に……!!

「ということは、シンタローはカノのことが心配だと?」
「はぁ…まぁ」
まぁ、一応は。
「……良かったな、カノ」

良かったねカノさん。ん?……カノ!?
するとすかさず飛び込んでくるカノさん。
「カノさん!?」
いったいどこに…それを考える間もなく、
「シンタローくんが僕のこと心配してくれてて嬉しいなぁ」
「〜〜! だから、そういうのじゃ無いですって!」
「そうなの? じゃあ昨日、時たま後ろを向いてキョロキョロしてたのも、曲作りが手についてないように見えたのも僕だけか〜」
悲しそうな口ぶりのわりに顔は笑っている。(いつもか)

「な、ななななんでそれを!」
「あ、図星だね。ンタローくん照れちゃってー、かわいいね」
「やめてください! そういう言い方!!」
「でも、僕ほんとに今喜んでるよ?」

「ぎゃあああ頭わしわししないで!うわ、乗って来ないでください!!」

ひぃいい!!

「シンタローくんかっわいい〜」
「ぎゃあああ!!!」

そして、30分後開放されたぐったりしたシンタローくんとは対照的に、いつもより笑みが濃いように見えるカノさんがそこには居たのでした。

「エネちゃんが『ご主人が今つくってる曲全然駄目ですよ。まるで手についてませんし。私がイタズラするのすら酷くて出来ないレベルでしたよ!』って言ってたのも、『ご主人は照れてるだけですよ。今日も辺りを見回してましたよ』って言ってたのも、ほんとだったね」
「な、なんてことを言ったんだエネ〜!! でて来い!」
「だってご主人、そうしたらカノさんがご主人の秘密を教えてくれるって…!!」
「どういうことです! カノさん!」
――カノさんは答えなかったけど、相変わらず楽しそうに笑っていた。


   

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