▼ 移りゆく僕らB
「おいクソガキ」
「何だよ」
「何、機嫌損ねてる」
「へっ別にフツーだ、うん」
「へぇ…。てっきり俺に置いてきぼり喰らってへそ曲げてんのかと思ったぜ」
「っ…!誰がそんなことで!口うるせえ旦那がいなかったおかげで温泉満喫できたぜ、うん」
「そうかよ。ガキにはちょうどいい骨休めだったみたいで何よりだ」
「このやろ…っ!」
「気に障ったか」
「っ…!アンタの挑発には乗らねーよ!オイラは大人だからな、うん」
「「先輩」呼ばわりされて有頂天になってるくせに何が「大人」だ。自惚れんな」
「人の気も知らねぇで…!…旦那は!自分を人形にした時に感情も捨てちまった旦那には、オイラの気持ちなんか理解できねえよな!はっ、何が永久の美だ!」
「お前の一瞬の美だったか?そんなまがいものの芸術論唱えてるようなお前には、俺の芸術は一生理解できねえよ」
「っ…!アンタとコンビ組まされるのはもう御免だ!」
「生憎だな。俺もそう思ってたぜ」
「出てけよっ…!バカ旦那っ…」
「言われなくてもそのつもりだ」
「畜生…」
サソリが部屋を出た後、デイダラはそう零し、唇を噛み締めた。
それから一週間サソリとデイダラはお互いに口を聞かなかった。
「デイダラ」
「ん?何だいリーダー」
「次の任務のことだが…詳細はここに書いてある。サソリにも伝えておいてくれ」
「…了解」
こんな時に旦那と任務かよ。あれから口も聞いてねぇし、気まずいったらないな、うん。…いや待てよ。
……よし、いける!旦那の手は借りねぇ。こんくらいならオイラ一人で十分だ。
見てろよ旦那。アンタがいなくたってオイラは痛くもかゆくもねぇんだ、うん。
「デイダラ知らないか?」
「えーデイダラちゃん?そういや見てねぇなぁ」
「デイダラなら随分前に出かけたが…。単独任務なのでは?」
は?単独任務だぁ?そんなの聞いてねぇぞ。…あいつ黙って行きやがったな。
「リーダー」
「ん?サソリ?何で居るんだ?」
「なんだよ。居ちゃ悪いのか」
「お前今日はデイダラと任務のはずだろ」
「あいつの単独任務なんじゃないのか」
「ああ。一人では危険だから二人で行くように頼んだんだが…」
「…あのクソガキ」
まだ帰ってこねぇ。いつまで手こずってやがる。
迎えに行ってやってもいいが、人一倍プライドの高いあいつの事だ。俺を出し抜こうとして息巻いた挙げ句、俺に助けられるときたら逆上して収拾がつかなくなるのがオチだ。―いや逆上するような元気があるならまだいい。
「…まさか死ぬなんてことはないよな」
嫌な事を思い出した。本当に忌まわしい記憶だ。いくら待ったところで死んだ者は二度と帰ることはない。それをいつまでも想い続けるだなんて、くだらねぇ。
人間ってやつは無駄な感情に支配され、無駄な行為に走る。――俺はその疎ましさから逃れるために、人間を捨てて人形になったんだ。…なのに……何でまた…
(自分を人形にした時に感情も捨てちまった旦那には、オイラの気持ちなんか理解できねえよな!はっ何が永久の美だ!)
「そうだな。お前の言う通り…」
俺にこんな感情が残されていることこそが、俺が自身の芸術を昇華しきれていない何よりの証だ。
だが今はそれさえ厭わない。
「…だから、早く帰ってきてくれ………デイダラ」
「いってぇ…」
危うく失敗するとこだった。やっぱり一人じゃキツかった。旦那がいてくれたらこんな深手負わなかったかもな…
やっとの思いで自室まで歩き、ベッドに倒れ込んだ。全身がひどく傷む。何処かから出血しているようだがもう一歩も動けない。―もう動けない。
「痛むか?」
意識を手放そうとしていたら不意に声を掛けられた。旦那だ。嫌味でも言いに来たのか。
「まあな」
「何で一人で行った」
「オイラを見くびんなよ旦那」
「はっ俺からすればお前はまだまだクソガキだ」
「けっ…相変わらず減らねぇ口だな」
全身が痛い。…だが久しぶりに聞く旦那の声に何故か心が安らいだ。ああ、本当に久しぶりだ。いつから口を聞いてなかったのだろう。随分と懐かしくて心地好い…
旦那に見守られて、このまま眠ってしまいたい――
「……置いていくなよ…」
旦那の小さな声が耳元でした次の瞬間、オイラは柔らかな感触に包まれていた。
―――!??
オイラ抱き締められてんのか!?まさか、旦那に!??
「えっ…!?旦那!?」
「…一人にするんじゃねぇよ」
「アンタ何言ってんだ…」
「俺を残して逝くな……頼むから…」
どうしちまったんだ、旦那。こんなの、こんなの、アンタらしくねぇよ。
初めて見る旦那の弱々しい姿にオイラは動揺を隠せない。というか旦那に抱き締められるなんて……。
旦那のくせっ毛が頬を撫でてくすぐったい。思ったよりも近くに旦那の綺麗な顔があって、心臓の鼓動が一気に速くなる。ってなんか顔近すぎねぇか!?
……!!!
オイラの唇に何やら冷たいものが触れた。それは紛れも無く……旦那の唇で……
「だ、旦那!!???」
「…お前が好きだ。デイダラ」
「なっ…」
「何処にも行くな………好きなんだ」
オイラ夢でも見てんのか…怪我のせいでおかしくなっちまったのか……でも…、何だろうこの気持ち。ずっと埋まらなかった心の溝が、少しずつ暖かいもので満たされていくような…不思議な気持ち。―ああ、オイラ嬉しいんだ。旦那がオイラと同じ気持ちでいてくれたこと。
「………全部、全部オイラの台詞だ、うん」
恥ずかしくてまだちゃんと「好き」とは伝えられないけど。今はコレがオイラの精一杯の愛情表現だ。
旦那は優しく微笑んで、オイラにもう一回キスをしてくれた。
――――――――――――
書いてて私のほうが恥ずかしくなったよん。←
このベタな展開!センスのなさ!はっはっはっ!
しかも喧嘩のシーン!なんかグダグダ…orz
次はラブラブな二人のお話です!(まだ続くのか)
2012/10/02