Happy Birthday to Sasori !

パンパンパーン!

派手な破裂音と鼻につく火薬の臭い。少量の白煙とカラフルな紙吹雪。


「「「誕生日おめでとう!」」」

「はぁ?」


サソリは顔をしかめた。単独任務からアジトに戻るや否や、普段暁メンバーの談笑の場となっているリビングに呼び出され、その戸を開けると自分を除くメンバーが総出で待ち構えており、異口同音に月並みな祝い文句を発したからである。

「何だこれは」

「見て分かるだろ、うん!旦那の誕生日会だよ!」

「ああ?」

割と地味な佇まいである室内が見違えるように装飾されている。そこらじゅうにぶら下がるお馴染みの輪飾り。紙の花飾りは小南によるものだろう。精巧な造りのそれが空間をより華やかにしていた。正面の壁に掛かる横断幕には作者明白の「サソリの旦那誕生日おめでとう」の文字。その周辺には見覚えのあるデイダラの芸術たちと飛段の信奉する宗教のマークなどが描かれている。さりげない三色団子の絵も発見し、サソリはクスリと笑みを溢した。

和気あいあいとした雰囲気は犯罪者組織には似つかわしくない。だが、悪くない、と思った。くすぐったくて、照れくさくて。仲間の心温まる計らいに顔を綻ばせていた彼は、不意に妙な違和感の正体に気づいた。

「おい、ちょっと待て。今日は何日だ」

「えーと、今日はなぁー」

「11月7日だ、サソリ」

「おかしいじゃねぇか。俺の誕生日は明日だぞ」

「それなんだが、明日はお前とデイダラにある任務を頼みたくてな。それで前日ではあるが、皆揃っていることだし、今日お祝いすることにしたんだ」

「知ってて当日に任務入れてくるとはさすがだな、リーダー。まぁ誕生日祝ってもらうような歳でもねぇけどな」

「そう言うなってサソリ!俺たちが35のオッサンを盛大に祝ってやるからよォ!」

「お前の発言どことなく気に障る」

「さあさあ、せっかくのご馳走が冷めてしまいますよ。今日はサソリさんのために腕をふるいましたからね」

「悪いな、鬼鮫」

サソリが招かれた先には、色とりどりのオードブルに真っ赤な苺の並ぶ大きなホールケーキ。メインとなる肉料理に高価なシャンパン。鬼鮫渾身の豪華なパーティーメニューが食卓に所狭しと並べられていた。

「サソリ、お前の組織での働きぶりには本当に感謝している。いつも無理を言ってすまないな」

「別に構わねぇよ。嫌ならとっくに抜けてる」

「サソリさん、俺のために薬を調合してくれてありがとう。本当に助かっている」

「では、サソリ。いつものように酒盛りといくか」

労いの言葉が飛び交う。それだけサソリが皆に慕われているという証だった。彼は満更でもない、といった様子で鬼鮫の手料理をつまみに角都たちと杯を交わす。その光景を少しつまらなそうに眺めていたのは、未成年のデイダラ。飲酒が許されない歳であるため自然と爪弾きにされた、というのもあるが、自ら少し距離をとっているようだった。皆から祝福を受ける相方を嬉しく思う反面、いつものように構ってもらえなくて拗ねている、といったところだろうか。

「おーいデイダラちゃん!何やってんだよ!こっち来いって!」

「うるせぇな!言われなくても今行くとこだ、うん!」

「デイダラ。貴方まだ飲めないんだし、サソリのお酌でもしてあげたらどうだ?」

「え?あ、そ、そんな酒臭い役御免だ、うん」

小南の気遣いにもぶっきらぼうに返し、此方へ来ようとはしないデイダラ。素直じゃないな。これが本人とサソリ以外の総意であることは間違いないだろう。

「ならば俺がやろう」

そう言って立ち上がったのはイタチだった。酒の瓶を持ってサソリの隣に腰を下ろそうとすると、

「イタチ!テメェ!オイラの仕事横取りしてんじゃねぇ!」

と、デイダラがイタチの持つ酒の瓶を分捕り、サソリの隣にどかっと音をたてる勢いで座った。

世話の焼ける奴。これが本人とサソリ以外の総意である。当のサソリはというと、一連のやり取りをクツクツと笑いながら見ていた。デイダラのイタチ嫌いは相変わらずだな、と少々見当違いなことを思いながら。

笑顔の絶えない賑やかな室内。皆の穏やかな表情には日頃の犯罪者組織の面影は一つもなかった。案外これが彼らの本来の姿なのかもしれない。

23時も半ばを過ぎた頃、リーダーペインによって解散の合図がなされた。

「そろそろお開きとするか」

「あー?もうかよ、早くねぇ?どうせなら日が変わるまで飲んで、サソリの本当の誕生日おめでとうってことでまたパーっとやればよくねぇ?」

「それもそうだな。俺もまだ飲み足りねぇし」

「いや駄目だ。サソリとデイダラは明日任務だと言ったはずだ。寝坊だとか二日酔いでは洒落にならん」

「チッ、お堅いリーダーだぜホント!」

興も醒めやらぬまま、各々の部屋へと戻るメンバーたち。部屋が向かいであるサソリとデイダラは並んで歩いていた。明日寝坊すんなよ、と相方に声をかけ、部屋に戻っていこうとするサソリをデイダラが呼び止める。


「あのな、サソリの旦那」

「ん?」

「…本当はな、オイラがリーダーに頼んだんだ、うん。前日にしてくれって」

「は?明日任務なんだろ?」

「や、それはその、リーダーが気を遣って嘘ついてくれたんだ、うん。本当は明日何もねぇんだ…うん」

「どういうことだ?」

「つまりさ、オイラ、当日はアンタと二人きりでお祝いしたくて…」

「二人きり?俺とか?」

「他に誰がいんだよ!うん。…その、だからオイラ、旦那を独り占めしたくてさ…」

「わざわざ前日にってわけか」

「…いけなかったか?」

「……」

「別に嫌ならいいんだぜ!旦那はいつもの休暇みたいに傀儡のメンテナンスすればいいし、オイラだって暇じゃねぇからよ!うん!」

「デイダラ」

「…何だよ」

「そういうの嫌いじゃねぇぜ?」

「……そりゃよかった」

「ほら入れよ」

「え?」

「もうすぐ当日になる。一緒にお祝いするんだろ?」

「…うん」

サソリは自室にデイダラを招き入れると、すぐさま彼を抱き締めた。驚いたデイダラは元々赤かった頬を更に染め上げ、体をじたばたとさせる。だが次第に落ち着きを取り戻し、サソリに身を預けるとその肩に顔をうずめ、「誕生日おめでとう。サソリの旦那」と呟いた。サソリがチラと時計に目を遣ると、ちょうど0時を回ったところであった。サソリは微笑む。くすぐったくて、照れくさくて。悪くない。デイダラを抱き締めたまま、ありがとな、と感謝の言葉を告げる。相方から返ってきたのは、「大好きだ」の一言。−何だろう。くすぐったくて、照れくさくて、愛しくて。幸せだ。サソリはデイダラの一言をそっくりそのまま返すと、せっかちな彼にしては珍しく、ゆっくりとデイダラに口づけた。















余談ではあるが、デイダラがサソリの部屋に入っていくまでの一部始終を物陰から盗み見する8人の影があったそうな。

「…やっぱりそういう事でしたか」

「俺には読めていたがな」

「リーダーも気が利くじゃねぇかよ!ゲハハ!」

「デイダラには恥ずかしいから秘密にしといてくれと言われたのだが…」

「これだけバレバレじゃあ貴方の気遣いも無駄ね」

「これでバレてないと思ってんの本人たちだけですよー。どうにかしてくださいよ、あの夫婦」

「夫婦って…」
「自分カラ負ケヲ認メタゾ」

「しまった!」

「二日に分けると余計に金がかかるのだがな…」

デイダラには、当日分は全額自分の給料から引いてくれと言われたものの、少しぐらいはヘソクリから出してやろうと思った角都であった。

当の本人らは自分達のいないところでこのような会話がなされているとは露知らず。

皆に愛される芸術夫婦のお話でした。

何はともあれ、サソリの旦那、お誕生日おめでとう!


2012/11/08















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ちょっとした表現が気に食わなくて試行錯誤してるうちに上げるの遅くなっちゃいました。反省。しかし旦那への愛は十二分に込めました!

2012/11/12



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