to be.

ある任務の際に、男女の情事の場に出くわしたことがある。
賞金首の動向を探り、奇襲に絶好の機会を伺っていたところだった。デイダラも一緒だった。標的の男は、どうやら懇意であるらしい女を連れて人気のない所に入っていくと、屋外であるにも関わらず、そのまま行為をおっ始めやがった。デイダラはあからさまに動揺し、揺れる二つの影から顔を背けた。俺はまさに今がその絶好の機会じゃねぇか、と思ったが相方が明らかに戦意を喪失しているので、諦めてその場をやり過ごすことにした。

かなり深い仲であるようだが、場所を弁えろ、と思う。気持ち悪いんだよ。猿みてえに喚いてんじゃねぇ。俺は求めあう男女に向かって悪態をついた。
くだらねぇ。ああ、くだらねぇくだらねぇ。人間をやめることができてよかった。あんなの俺は御免だ。汚ならしい。気持ち悪い。なんと言っても無駄だ。効率が悪い。
それに比べ、傀儡の体は快適だ。食事も睡眠も必要としなければ、排泄や性行為も行わずに済む。非合理的としか言い様のない人間の動物的な側面を排除したのがこの体だ。
そしてもうひとつ…

「嫌なもん見ちまったな、うん」

「ああ」

「…まあこれぐらい待ってやってもバチは当たんねぇよな、うん。こんな隙だらけの時に襲うってのもクールじゃねえ。オイラたちなら別の機会に十分殺れるしな、うん」

「…無駄に情け深いというか、自惚れが過ぎるというか」

「まあそう言うなよ旦那。さすがにオイラでもあの仲を割くのは気が引けるんだよ。どんな人間にも人を愛する権利ってのがあるだろ、うん」

「それ以上くだらねぇこと言うと殺すぞ」

「チッ…本当短気だな旦那は」

不愉快だ。何が人を愛する権利だ。そんな権利欲しくもなけりゃ、他人に主張される筋合いもない。
やはりこの機を逃す手はない。俺は巻物を取り出し、事の最中である標的めがけて傀儡を放った。迫りくる脅威に気づいた男が女を庇うような素振りをするが、遅い。断末魔の叫びが耳に届く。
一瞬だった。俺の傀儡が賞金首を女もろとも血祭りにあげる。飛び散る鮮血。聞けば、かなり腕の立つ抜け忍だというから俺たちは警戒していたのだが、拍子抜けだ。どれだけの手練れであろうと所詮は人間という訳か。

デイダラは殺しの瞬間を見ようとはしなかった。俺を見ようともしなかった。いつもの威勢のよさはどこに消えたんだ。俺を非難しているのだろうか。どれだけ犯罪に手を染めようとこいつも人の子だ。それにまだ若い。実際に今まで何度か俺の非情ともとれる判断に反発することがあった。かと言って俺の決定は揺るがない。卑怯だ残忍だと詰られようが俺は罪悪感などとうに感じない。

もうひとつ、非合理的であるが故に俺が排除したもの−それが感情だ。
愛情だの憎しみだの人間の感情は、冷静に任務を遂行する上で妨げになる。無駄だ。

「相変わらず容赦ねぇな旦那は」

「悪いか」

「何も女まで殺ることなかったんじゃねぇか、うん」

「あれだけ密着してたら両方殺るほうが容易いだろうが」

「…冷てぇな、うん」

デイダラの目が曇る。何とでも言え、と返してやった。

「目の前で恋人を殺されて、その先傷を抱えながら生きていくよりは、二人同時に逝かせてやった方がマシだろ」

突如デイダラの目が見開かれた。綺麗な碧眼が俺を射抜く。

「…旦那、前言撤回させてくれ。アンタ、心根は優しい人なんだな、うん」

優しい?俺がか?何言ってやがる。俺が優しくなんて出来るわけがない。俺は感情を捨てたんだ。俺が最善だと思うやり方で任務を遂行したまでだ。

「結局ちゃんと人の部分も残してるんだな、うん」

「何わかったような口利いてんだ」

「…オイラ多分、そういうところに惹かれてるんだろうな」

「何の話だ」


「旦那が、好きなんだよ」


俺は思わずデイダラを見た。驚きに自分の目が見開かれるのが分かる。唐突に放たれたその言葉があまりに衝撃的だったようだ。核がドクンと波打つ。どういう事だ。

昔、まだこの体になる前に、俺を抱いた男が似たようなことを言っていた。お前は優しい、好きだ、と。何言ってんだか。当時の俺はまだ若輩者でその言葉を真に受けていた訳だが。くだらねぇ。俺を好きだと言ったそいつの末路は俺の操り人形だ。その感情が奴の理性を、思考を狂わせたんだ。それさえなければあんな姿にならずに済んだものを。

「…聞いてんのかよ旦那」

ひどい嫌悪感だ。こいつを見ているとやたらと虫酸が走る。忘れたいのに忘れられない何かを、捨てたいのに捨てきれない何かを、こいつが、

「興味ねぇよ。お前のことなんか」

俺がそう言い放つとデイダラは酷く傷ついた顔をした。ざまぁねぇな。俺なんかのことを好きだなんて言うからそんなことになるんだ。まだ若く、容姿も悪くない。忍としての力もなかなかのものだ。なのに、俺なんかに構っているから。ほら、早く何処か行っちまえよ。

「なら…アンタが興味持ってくれるようにするまでだな、うん」

真っ直ぐに見つめてくるデイダラの視線に堪えられなくて俺は目を逸らした。デイダラが近づいてくる。迷いなく俺の両肩を掴む。触れたところから俺にはない熱が伝わる。こっち向いて、と囁かれる低い声。疼く俺の核。更に距離が詰められて、肌に感じる熱い吐息。

もう勘弁してくれ。お前の存在に核ごと揺さぶられている俺は、本当に人形なのかどうか判らなくなるから。














ーーーーーーーーーーーー

デイダラがいてくれたから"生きて"いたサソリ。

…をテーマに書いてたんですが途中で迷走して訳が分からなくなりました。


2012/11/04


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -