Happy Halloween !

コンコン。

デイダラの部屋の戸がノックされた。暇を持て余していた部屋の主は音のする方へ顔を向ける。

「デイダラ」

「ん?旦那?入ってくればいいのによ、うん」

デイダラが自室のドアを開けるとそこには−



暁のコートを纏い不気味なカボチャの顔をした人物が立っていた。

「ぎゃああああ!」

「驚いたか?」


カポっとカボチャの被り物を外し、見慣れた赤髪が顔を出す。

「当たり前だろ!何やってんだよ旦那!」

「お前、今日が何の日か知ってるか」

「へ?今日か?」

デイダラが考えを巡らせていると、サソリは持っていたカボチャをもう一度被った。

「Trick or Treat だ。デイダラ」

「と、とり…?」

「菓子をくれなきゃイタズラするって意味だ。今日はな、ハロウィンっていって、こうやって仮装して菓子をねだる日なんだぜ」

「ふーん。変な風習だな、うん。というかアンタそれ自分で作ったのかよ」

サソリは再び被り物を脱ぎ、不気味な表情をたたえる橙の物体をまじまじと見る。

「そうだ。なかなか上手いもんだろ?」

「時々子供みてぇことするのな、旦那」

「悪かったな。小さい頃、この日になるとチヨバアに仮装させられてたんだよ。それで菓子を貰ってた」

「旦那の幼気な子供時代の話か、うん」

「ふと思い出してな」

「で、オイラは旦那にお菓子をあげればいいのかい?」

「ま、そういうことだな」

「オイラ今何も持ってねぇから後でもいいかい?」

「いらねぇよ。どうせ食べられないしな」

食べられない。その一言にデイダラは体をピクッと揺らした。サソリは傀儡の体であるから当たり前なのだが、事ある毎にデイダラの心はそういった類いの言葉に反応してしまうのだ。そんなデイダラを余所に、サソリは包みを差し出した。

「受け取れ」

「ん…チョコレート?くれるのかい?」

「これもよくチヨバアがくれてたんだ」

「ありがとうな、うん」

サソリはどこか満足そうに自室に戻っていった。彼の大きくはない背中を見送った後、デイダラは彼が残したチョコレートを手のひらにのせ見つめた。可愛らしい包装紙にはカボチャやコウモリなどの絵が描かれている。そのハロウィンらしいデザインを、デイダラはかなり気に入ったようだった。そして先程から耳にこびりついて離れない言葉をもう一度脳内で再生する。

(どうせ食べられないしな)











暫くして今度はデイダラがサソリの部屋を訪れた。

「おい旦那。開けてくれ」

「何だ」

サソリがドアを開けるとそこには−



「とりっくおあとりーとだぜ旦那」

「デイダラ…か?」

「どうだ!驚いただろ、うん!」

「………っぷはははははは!」

「うおっ?何だよいきなり笑い出して!」

突如サソリが堰を切ったように笑い出し、彼を驚かせるつもりでいたデイダラは出鼻をくじかれた形になった。

「お前っ、上手く変化してるつもりかしれねえが……ハハッ、髷が…ククッ、髷が残ってるぞ」

「なっ?!嘘だろ!」

「それも、なんでまた老人に変化したんだよ。というか老婆か」

デイダラは変化の術により老婆に化けたのだった。しかし髷だけがそのまま彼のそれであり、なんとも奇妙である。ばつが悪そうに髷に触れながらも、こんな風に笑うサソリを目にすることが非常に稀で、とても人間らしいそれに心の底から嬉しいという感情が込み上げてきた。

「アンタの婆さんと似てるかい?うん」

「俺の?…お前、まさか」

「旦那があんまり懐かしそうに昔話をしてたからよ、うん」

「…妙な気遣いやがって。全然似てねぇよ」

サソリは顔を背ける。要するに照れくさいのだろう。デイダラは思わず笑みを溢した。

「で、お菓子くれよ旦那」

「あ?さっきやっただろ」

「さあ?知らねぇな、うん」

デイダラが悪戯っぽく笑う。老婆に化けた彼の笑顔が、似ていないはずなのにどこかチヨバアを彷彿とさせ、サソリはハッとする。

「もう持ってねぇよ」

「ならイタズラさせてもらうぜ、うん」

「へぇ…いい度胸だな」

「旦那手出して」

「何する気だ?」

「はい、お菓子」

「は?」

サソリの手の中にはチョコレートの包みが。その包装紙はデイダラが描いたのだろうカボチャや自分の十八番の絵で飾られていた。

「食べられないって言ってたけど、受け取るくらいならできるだろ?」

「……ああ」

デイダラはさも満足そうに笑う。その笑顔を見ながらサソリも微笑んだ。

「ありがとな」

「どういたしまして。じゃあな」

デイダラは変化を解き、いつもの姿に戻った。そして踵を返し、そのまま部屋を去ろうとすると、サソリがその手を掴み彼を引き留めた。目が合う。サソリは驚いているデイダラを引き寄せ、ふわりと啄むようなキスをした。

「…ちゃんと俺がやったチョコレート食べたんだな」

「なっ…」

デイダラは顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。そうだ。確かに貰ったチョコレートは食べた。しかしそれ以上に…


(甘い…)



















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Happy Halloween !


2012/10/31


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テーマ「人外ファンタジー」
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