君の背に


(あーつまんねえの)

暇だ。凄まじく暇だ。任務もなければ創作活動にも身が入らない。アジトに籠っていてもメンバーは皆出払っており、静寂だけがその存在を主張するばかりで、暇潰しの術もない。

「こうしてても埒があかねえし、散歩でもすっかな、うん」

独り言がいやに耳に響く。薄暗いアジトを出て、澄んだ外気を肺の許容量ギリギリまで吸い込み、思いきり吐き出す。振り仰げばどこまでも続く真っ青な空。デイダラは行く宛もなく歩き出した。見晴らしのいい高台に登り、青々と繁る草の上に腰を下ろす。視界には人工的なものなど何一つ入らない。

「ひとりぼっちだなー…」

頭に浮かんだ言葉を口にすると寂しさが込み上げてきて、思わず鼻の奥がツンとなった。そんな軟弱な感情を払拭しようとぶるぶると首を横に振る。

「全然いいけどよ、うん」

自分の口癖に妙に安堵する。思えばこうして己の言葉を己で肯定する事によって気持ちを落ち着かせているところが彼にはあった。無意識のうちに身につけていた自己防衛のようなものだ。デイダラは物思いに耽る。そういえば、他人に肯定されたことなどなかった気がする。彼が主張する少々風変わりな芸術論はなかなか他人には理解されないものだった。

(周りが馬鹿なだけだ、うん)

いつも通りの台詞を心の中で吐き、風に流されていく白い雲を見送る。青の広大なキャンパスに浮かぶ白を綺麗だと素直に思いながら、更に自分の世界へと思考を巡らせようとしていると、

「…うおっ!」

いきなり後ろから腕を回されて、デイダラは心臓が止まりそうになる。背後に誰かいたらしいが、ぼんやりしていたせいか全く気づかなかった。忍として、暁として、最大の不覚だ!と後悔しても後の祭り。どうにか臨戦態勢をとろうとするも完全に相手に動きを封じられてしまった。一巻の終わりだ、なんて情けねぇ!と嘆きギュッと目を瞑る。…だがどうも様子がおかしい。相手がそれ以上何もしてこないのだ。恐る恐る目を開ける。

「……どうなってんだ…?」
「大丈夫だ…」
「え!?」
(この声は…、)
「大丈夫だよ」
「え?ああ、うん…」

声の主、つまりデイダラを後ろから抱きすくめている人物は、彼が最もよく知る相方、サソリなのだった。それから暫くサソリはデイダラを抱き締めたままで、二人の側を爽やかな風が吹き抜けていった。

「旦那…どうしちまったんだよ」

漸くデイダラが言葉を発する。こんな風にサソリに抱き締められた事など一度もない。未だに心臓がドクドクと波打って落ち着かず、思考もまとまらない。

「…!…悪かった」

サソリはハッと我に返った様子で、デイダラから素早く身を離した。デイダラは負けず劣らずの速さで振り向き、サソリの表情を確認しようとする。するとサソリは今までに見た事もないような苦しそうな顔をしていた。

「い、いや、敵かと思って驚いただけだから別に気にしてねぇんだけどさ…」
「ああ」
「ま、まあ声ですぐ分かったんだけど…うん」

サソリの行動と表情に困惑しながらも、なんとか言葉を紡ぎ、その真意を確かめようとする。

「その…な、なんで?」
「…似てたから」
「ハイ?」
「お前が寂しそうにしてたから」
「えっ…なんでっ……じゃなくて、ああ、まあ…ちょっとだけな、うん。つか誰に似てたんだよ」

サソリはデイダラの問いには答えず、唐突に立ち上がるとそのまま踵を返し、足早に去っていった。











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あの日の僕を見た


2013/12/02



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