下り坂を行く


他の奴等なんてどうなったっていい。俺に慈悲だとか情けだとか求める方が間違ってる。
俺さえ良ければいい、というのとはまた違う。俺自身だってどうなっても構わない。詰まる所、この世に執着がない。だが死ぬことができなくなった俺はまるで生ける屍だった。老いることなく、朽ちることなく。何て矛盾した、何て馬鹿げた考えだろうか。それでも俺は永久を求め続ける。俺が自身の芸術の中に見出だした永久の美という幻想と欺瞞を纏って。

欲しかったものなど、とっくに手の届かない場所に追いやられていた。
幼い非力な自分がどうこうできる問題ではなく。それは唐突に、ただ"運命"として目の前に突きつけられたのだ。何て残酷なのか。その運命が、俺を蝕み、翻弄し、堕落させた。

そして、不老不死の、もはや人間とは呼べない存在と化してしまった。哀しい訳ではない。これが俺の芸術の最高傑作なのだから。ただ、時々、とてつもない虚無感に襲われ、アイデンティティが崩れ落ちていくだけで。

何処までも延々と続いていく、日の当たらない下り坂を、一定の速度で下っていく。そんな毎日だった。

どうする?自らの手でこの矛盾だらけの自分に止めを指すか?何人もの人間を手にかけてきた俺には容易いことだろう?−ココを一突き。これが俺のカラクリ。人間でもなければ、人形でもない。ああ、なんて不完全な、不毛な存在なのだろう。完全無欠でありたかったのに。結局俺は、人形になりきれなかった人間で。だが、人間のままでいるには、俺は弱すぎた。




―なあ。お前は許してくれるか?こんな俺でも。

下り坂は尚も続いている。俺の命のある限り続いていくのだろう。ただ、以前と違っているのは、この下り坂を俺と並んで歩む奴が現れたことだ。わざわざ俺と歩調を合わせ、俺の隣をさも満足そうに歩くのだ。

「おい、サソリの旦那、」
「…何だ。腹でも減ったか」
「ご名答。さすがは旦那。伊達に長年相方やってねぇぜ、うん」
「調子に乗るなクソガキ」
「ちょっとは素直に喜べっての。何にすっかなー…やっぱりおでんだよな、うん!」
「…よく飽きねぇな」
「へっ、おでんの爆弾は絶品なんだよ。わかんねぇかな、旦那みたいなヒネクレ者には」


他愛も無い、なんてこと無い会話だ。それが、どうしてだ。俺の虚無感もジレンマも揺るがないはずだった孤独さえも、吹き飛ばしてしまうのだ。何の執着心も感じなかったはずのこの世界に縋りつきたくなるような気になるのだ。



下り坂を進んでいく。ゆるりゆるりと。引き返すことは不可能だ。この先も進まなくてはいけないのだ。終わりなき下り坂を。だが、その足元―ちょうど二人分の―はとても明るく感じられた。












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2013/12/03



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