:: first impressiton


見た目っていうのは、やっぱ大事だと思う。
第一印象ってどうしても見た目から受けちゃうもんね。



その日あたしは悲劇のヒロイン、だったのだ。
「ファイト!ガンバ!」
「耐えろよ〜」
「同情するなら残ってよ〜…」
「「イヤー」」
心無い友人はあたしを残して教室から出ていった。
他のクラスメイトもわらわらと教室からでていってしまう。
そうしてぽつんと残されたあたし。が、教室に一人ならまだよかったのだ。
教室にはもう一人、あの亜久津仁がいるではありませんか。
ちょっとマジあたし大ピンチなんじゃありませんこと?だってあの亜久津仁だよ?超がつくほどの不良さんだよ?そんなのと今教室に残されちゃってんだよ?二人きりで。
何このシチュエーション、マジちょっとこれみんな薄情すぎるでしょ酷すぎるでしょ。
あぁ、今のあたしは狼の前の子羊だ。風の前の塵に同じだ。目があったら殺されるぞ。
そうだあたしは影、あたしは酸素。気付かれなければいいんだ!はい!無理!だって教室に明らか二人しかいねーもん!
あぁやだなー、怖いなぁ。ううう…、なんであたしこんなとこにいなきゃなんないのよ。
あたしの胸中もなんのその。奴は机に足乗せて数学の教科書なんぞを見てやがる。その教科書は新品そのもの。今二学期なんですけどォォオ!
そんなイスの足二本でバランスとってると今に転んで頭を打つぞ。危ないなぁ。
「ちゃんと残ってんなー。よしじゃあ再々々テ始めんぞー」
先生が入ってきて問題を配る。
そう、これは再々々テストなのだ。要するに、あたしはテストに落ち続けたから今ここにいるのだ。
初回、100点満点中60点合格のテストで、あたしは32点だっだ。惜しくも何ともない、ばっちりんこ再テスト。
二回目、同じ条件のテストで27点。えぇまた再テストですともよ。今回のテスト決定ですともよ。
っつか、なんで一回目のより悪いのよ。有り得ないっつの。有り得ちゃったっつの。
2回のテストでその他クラスメイトは全員受かり、あたしと、学校サボってテスト受けてない亜久津仁だけが今日のテストを受けることになったのだ。
「40分なー。先生はちょっと仕事あるからいなくなるけど、時間になったら取りにくるから。はい始めー」
「ぅえ?!先生いなくなっちゃうんすか?!」
「おー。俺もいそがしんだよ。なぁ神崎。いい加減に受かってくれよ」
「う」
「亜久津も受かれよー」
「けっ」
先生は扉の向こうに消えていった。
うっそん。マジっすか。
あたしはしばし呆然とする。
はっ、そんなことしてる場合じゃないんだよ。テストテスト…。
………。
………………。
………………………。
全然わかんないんですけどー。ちょっと待ってー。本気だしてヘルプミー。
「おい」
待てよ待て。あたしには野生の勘というものがあったりなんかしちゃったりしない?
「おい!」
適当に数字書けばまるっ!とか…。
「シカトこいてんじゃねーぞてめぇ。神崎!」
「はぃい!」
あたしの心臓が跳ね上がった。
呼ばれて振り返って。超睨まれてるんですけどー!
神崎聖花、大ピンチ。これで誰か現れたら男女問わず絶対惚れるね。
「一度で返事しろよ。ドタマかち割るぞ」
「な、なんでございましょう…」
王子は現れなかった。現実なんてこんなもんか…。くぅ…!
「てめぇの答案見せろ」
「は?」
「てめぇの答案見せろっつってんだよ」
「え…」
ほとんど埋まって、な、い、んですけど…。
「キビキビ動けよ亀が」
「あっ…!」
あたしの半白紙の答案が奪われた。
「………」
「………」
「…おい」
「はい…」
あたしはひたすら身を小さくしてあるだけだ。
「てめぇはやる気ねーのか?」
「違います。本気出してわからないだけです…」
「てめぇ馬鹿か」
「…おっしゃる…とおりで…」
蚊のなくような声の語尾がフェードアウトしていく。
亜久津仁は黙り込んだ。その沈黙が怖いんですけどー。
あたしの答案が机に置かれて亜久津仁が前のイスに腰を下ろす。
うそ、え、どっか行ってよー。
「…ちっ。ここはこれをxとおいて連立方程式を作りゃいいだけのはなしだろーが」
「え?」
トントンと答案を叩かれて、あたしは思わず目線をあげた。そしてそのまま固まる。
え、何今のこの状況。
「早く計算しろよ。早くしねぇと教師来ちまうぞ」
「え、あ、はい」
言われたとおりにガリガリ計算していって。おぉ!答えが出た!
「こことここも同じやり方で出来んだろ。こっちは…」
いきなり始まった亜久津先生の指導は、正直わかりやすかった。これマジに。
あたしが怖いからかつてない程真剣に聞いてたのもあるかもしんないけどホント。
あらかた解き終わって。
先生が答案回収して。
丸つけてあたし82点。無事合格。亜久津仁も合格だ。当たり前だけど。
亜久津仁は頭よかったんだ。不良さんだからお馬鹿さんなのかと思ってたよ。
「何見てんだてめぇ」
「え、あ…」
思わず亜久津仁をじっと見てたら気付かれて睨まれた。けど、テスト前より怖くない。いや怖いけど。テスト前よりはってだけで怖いですけどね。
「あ、ありがとう…。おかげで、合格出来たから…」
「けっ。あんなクソ簡単なテスト、解けて当たり前だろーが。てめぇ頭ん中ぬか味噌だろ」
「は?」
「教科書レベルも解けねーなんて、てめぇ学校通ってる意味ねーだろ」
「な…」
「それともよっぽど授業がクソなのかどっちかだな。どっちにしろくだらねぇ」
「………」
それだけ言って亜久津仁は行ってしまった。
「…ムカツク」
不良さんに馬鹿呼ばわりされましたよ。えぇあたしは確かにお馬鹿さんでございますけど、あの亜久津仁に馬鹿呼ばわりですか。
っつか不良のくせに勉強出来るとか有り得ないでしょ。ズルすぎでしょ。なんなのよ全く。
手に力がこもって82点の答案をくしゃりと音をたてる。
「………」
ムカツク、けど、教えてくれたしな。
あたし一人再々々々テストの危機を救ってくれたし。優し、い、のか…?もうよくわからん。
でもとりあえずあたしが彼に抱いてた『不良、怖い、お馬鹿さん』のお馬鹿さんは外れて、怖い、ってのも、見掛けだけで中身はいいヒトなのかもしれない。うーん。
もっとわかりやすい見掛けしててくれればいいのに。
そんなことを思いながらあたしは一人82点の答案を鞄にしまって帰路についた。



後日談。
彼があたしの答案を求めたのは、やり方はわかったけど計算がめんどくさかったからだそうだ。
そういえば、奴はあたしに計算させて、あたしは答えが出たことに感動していたけど、その横でその計算の答えを自分の答案に書いていた気がする。
ってこたぁあの野郎も同じ82点だったのか。
って、答えしか書いてない答案、プラス同じとこ間違って同じ点数ってのに疑いを持てよ教師!明らか不正行為が行われてたってバレバレじゃん!と、思ったけど。
「あれがバレたらテストで残されんの、てめーひとりになっただけだぞ」
…ごもっともだね☆


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