:: 南くんの恋人


私の彼は山吹中男子テニス部の部長さんだ。
レギュラーでダブルスで全国に行ったような奴だ。すごい奴だ。自慢出来るぞ。
でも地味だ。とても地味だ。だからダブルスのパートナーと二人セットで地味'sなどと呼ばれてしまうほどだ。だからそうそう自慢にならないぞ。
テニスだってぶっちゃけ清純君の「虎砲」みたいな技もない。ただどんな体勢でもストレートが打てるとか、なんとも微妙な特技しかない。
すごいらしいがよくわからん。でも地味だ。
でも本人派手なつもりだ。
あいつはいっぺん派手というものを知るべきだと思う。



「グリップテープがもうないんだよな。ボールも買わなくちゃだし。えー…っと、あとなんだっけか」
「…知らないよ…」
今日は休日。テニス部の練習は午前だけで午後は二人でお買い物だ。
ちょっくら電車に揺られて駅ビル入って二人仲良くお買い物、ではなく奴は一人ちゃっちゃか自分の買うものをカゴに入れている。
私はただその5歩後ろくらいからその様子をじとっと見つめてた。
ねぇちょっとその態度はどうなわけ?
私はあんたの部活の部員じゃないのよ?
南は結構お母さん体質なところあるから手間の掛かる部員さんたち相手にちゃっちゃと自分で動いて先に進めちゃうのかもしれないけど、それだってそもそも後輩にやらせろってんだ、けど今南はテニス部部長さんじゃなく、私の彼氏君として此所に居るんじゃないのかそうじゃないのか違うのか。あ?
とはさすがに口に出して言えなくて。
私はむっつり押し黙って南の買い物が終わるのを8歩離れた位置で待つ。私の一歩は狭い。
ふと横にあった鏡に映った自分の姿が目にはいる。
何の変哲もない普通のカッコだ。メイクもしてない。
マフラーして上着着てスカートブーツ。南とよく釣り合った姿だと我ながら思う。
大体南が地味だから私が女の子らしさアピールの可愛いカッコして隣り歩いたら浮いてしまう。
くそぅ。初デートはこんなカッコって夢も14年間抱いてたんだぞ。脆くも崩れ去ったじゃないかバカヤロウ。これが初デートじゃないけど。
まぁ初デートんときは季節が夏だっただけで服装の系統はそう変わらない。
ん?あれ?初デートは夏?
そうか、もう3つ目の季節か。早いなぁ。このままどんどこ歳とっておばあちゃんになっちゃうのもあっという間なんじゃないかもしかして。うわ恐ろしい。
「聖花?なにしてんだ?おまえ」
気がつけば脳内トリップしてたらしい。
南に声を掛けられて我に返る。
はっとして南を見れば13歩離れたところで不思議そうに私を見ていて手にはビニール袋。おぉ会計まで済ませてやがる。
「別に。なーんもしてないし」
「なんか気になるもんでもあったのかと思った」
「スポーツ用品売り場で気になるもんなんてあるわけないでしょ」
唇を尖らしてそっぽ向く。足は動かさない。
暇だったんだよコンチクショウ。私を暇になんかしとくから私がこんな道端で一人脳内トリップしちゃうハメになったんじゃないかバカヤロウ。はぐれて迷子にでもなっちまったらどうすんだ。
そんときゃ携帯ピッポッパか。あぁわかりやすい。
意味もなく訳もなくなんだか無性に腹立たしくて一人怒っていると、南がそばに来て、やっぱり不思議そうに私を見下ろした。
なんで怒ってんだこいつってところか。私だってわかんないよもう。
「ま、いいや。悪かったな待たせて。おまえの行きたい所行こうぜ」
離れてく気配に私は南を見る。地味なくせに背が高いんだよ。私が小さいのもあるが。理想身長差13cmなんて夢のまた夢だ。
私もててっと後を追う。
「あ、そだ」
不意に南が立ち止まって振り返って、差し出される手。
「おまえ、迷子になっちまいそうだから掴まえとかないと」
ほら、と突き付けられた左手を私はしばらくじっと見つめた。
おっきい手。左手だから普通の手だけど、右手はテニス部さんらしく豆だらけなのを私は知ってる。
いつも差し出されるのは左手なのは、右手はその豆のせいでごつごつして少し堅いから、南はいつもわざわざ左手を出す。左手が塞がってても、荷物持ち替えて私に左手を出す。だから私の左手は南の右手に触ったことがない。
自分の用事一人でちゃっちゃか済ませちゃうのは私が気兼ねなく私の用事で南振り回せるようにっていう心遣い。
女の子の長い長い買い物にも南は文句もいわず付き合ってくれる。
南は優しい。そんなの知ってる。
「聖花?」
なんだか頭ぐるぐるしてきて訳分かんないけどなんだか悔しくて、私はぷりぷり怒りながらまた少し距離を縮めた。
「迷子になんかなりませんーっだ」
そして出された左手握って一歩踏み出し肩を並べる。
私はまだ怒ってて、南から顔そむけっぱなしっで、南がしょうがないなって風に笑う気配がして、私はそれが悔しくて唇を尖らせたまま少し南を睨む。
南の手は暖かい。
歩幅だって狭い私の歩幅に合わせてくれる。
地味だろうがなんだろうが、他の子が「南君っていい人だけど恋人にするタイプじゃないよね」とかいわれてようと。

大好きだちくしょう。

言い出せなくて黙ったまま、握った右手に力を込めた。
彼は少し笑って、握った右手を握りかえしてくれた。
幸せだよ今。あっという間におばあちゃんになってもいい。



最後の恋をするなら君とがいいね。

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