:: 生まれて初めて人に殺意を抱いた日


あの頃はまだ付き合い始めたばかりの頃だった。
目の前で女の子にデレデレ鼻の下伸ばしてるのを許容できる程、あたしは出来た女じゃないんです。


今日はいわゆるデートの日。
待ち合わせして商店街をうろついてみたりゲーセンにはいってみたりなんか食べたり。
月並みな内容なのだけど、あたしは幸せ。なんて言えるはずもなくあたしの機嫌は半端なく傾いてそろそろ直角。
その原因は間違いなく、あたしの隣りを歩くオレンジ頭の千石清純この男にある。
最初からなんか気に食わなかった。別に清純が遅刻してきたわけじゃない。けど会って早々、
「今日は恋愛運よくってさ〜。新たな出会いが貴方を待っているかもってさ」
なんて、よくもまぁ彼女の前で言えるわね。それもめっちゃいい笑顔で。
一応気合いいれて履いてきたヒールの靴。ヒールで爪先ふんずけてやろうかと本気で思った。やめたけど。
足の指骨折、とか洒落にならない。そんときのあたしならそれくらいやれそうだった。


二人並んで歩いて、清純は腐ってもこの辺では有名なテニスの選手。
こいつら絶対男目当てで試合見に行ってるんだろうと思うような女の子が清純を見てはしゃぐ度いちいち反応してあげてる。
何こいつ。あたしが隣りにいること忘れてるんじゃありません?
なんですか。それとも手を繋がないことに対する当てつけですか。俺を引きつけておきたいなら首輪でもつけとけよっていうメッセージ?上等だよ。我が家の愛犬が昔つけてた首輪持ってきてやろうじゃん。
それとも鍵のほうをお望み?めっちゃ売れてる少女漫画みたく、鎖に錠つけておいて欲しいの?ぜってーやってやんねー。だってこいつなら絶対それネタにしてまた他の女の子口説きそうだもん。
『清純〜。なぁにこの錠?』
『コレ?コレは俺の心の錠。取れないんだ。鍵なくしちゃって。君が鍵になってくれる?』
………死んでしまえ。
自分の発想に寒気がした。だってクサくない?有り得ないっつーの。
「聖花?どしたの?」
「なんでもないよ」
少し遅れたあたしに清純が足を止めて振り返る。
この男、こういうところが質悪い。
女の子に夢中でもあたしがちょっとなにかするとすぐ気付くんだ。
あたしはちょっと足を早めてまた清純と肩を並べる。あたしが追いつくと清純はまた前を見て歩き出した。

結局清純は終始他の女の子に愛想振りまいたまま今日は終わりを告げようとしていた。

「今日は楽しかったな〜」
ものすごく良い笑顔を浮かべて清純は言った。ここであたしが「そうだね楽しかったね」なんてにっこり笑顔であわせてあげられるような女だったら清純はどんな反応を返すんだろうか。
ちょっと考えてみたけど、あたしにはそんなこと到底出来そうになかった。
ポーカーフェイス?なんですかそれは。喜怒哀楽気のみ気のまま感情をオープンにさらけ出すのがあたしの短所であり長所だと自分で勝手に思っていますけどそれがなにか?
「…そう?」
だからあたしは心の距離を感じさせるような視線を清純に送ってみた。
が、効きやしねぇ。おっと女の子がこんな言葉使いはしたないわ。もういやねぇ。おほほほほ。
なんてコンマ1秒の世界であたしが脳内で繰り広げていたら清純が奇妙なことを言い出した。
「俺は楽しかったけど。占いも当たったし」
占い?
『新たな出会いが貴方を待っているかも』
ってやつのこと?今思うと『かも』ってだいぶいい加減な言い回しだな。まぁ今はそんなのとうでもいい。
「新たな出会いなんてなかったじゃん」
「あったよ〜」
「? なかったよ」
あたしは言い張ってみる。
道端ですれ違う女の子はいたけど、特別出会いらしい出会いはなかったと思う。
隣りにいたあたしが気付かないわけがないのだ。
訝しげなあたしに清純は笑って言った。
「あったって。ずっと唇尖らせてつまんなそーに怒ってる聖花に出会えた。ほらラッキー」
何その満面の笑み。じゃあ何か?女の子にデレデレしてたのはわざとか?
いや、あれは素だった。
あたしは静かに拳を握った。
「………」
「メンゴ。怒ってる聖花可愛かったから、ついさ〜」
「………………」



その言葉に、あたしはこの男本気で殺してやろうかと思いました。


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