:: 最後の人


「気のせいかさ、聖花に会ってから俺運悪いんだよねぇ」
「はぁ〜?何それ」
机越し、いきなり突拍子もないことを言い出した千石に聖花は訝しげな目を向けた。
ほんのついさっきまでテスト勉強の話をしていたのだ。
それなのに何故まるで疫病神か何かのように言われなくてはならないのだろうか。
聖花は眉間に皺を寄せ千石を見つめる。
千石は聖花に会ってからの日々を思い出しながら唇を少し尖らせた。
「ん〜。だって聖花に会ってから桃城君に負けたり神尾君に負けたり」
「そりゃ清純の練習不足でしょ」
「ナンパも成功しないし」
「鼻の下伸ばして、いやらしい、下心見え見えだもん」
「こりゃテストのヤマも外れんじゃないかなぁ」
「ヤマ張らないで勉強しろ勉強」
うーんと困ったように千石はシャーペンの先で頭を掻いた。
聖花は付き合ってられないと千石から自分のノートに目をやった。
千石は今だずっとなにやら考え込んでいる。
「全部聖花に会ってからなんだよねぇ」
うわ言のようにそればかりを繰り返す。
「だから何よ」
いい加減聖花の苛立ちも臨界点へと近付いていく。少し言葉に不愉快さが垣間見える。
そんな聖花の様子を気にすることもなく、千石は言葉を続けた。
「俺今まで中学受験に受かったのが最高のラッキーだと思ってたんだよね」
「ふーん。で?」
どうでも良さそうに聖花は頷き先を促す。
千石は真理を語るがごとく自然に言った。

「聖花に会えたことが、最高のラッキーだったのかも」

「………バカじゃないの?」
「酷いなぁ」
瞬殺〜?と残念がる千石の顔を、聖花は作った笑顔を張り付けて覗き込んだ。
「私を口説いてるつもり?」
「え、なに、口説かれた?」
次からナンパに使えるかなぁ、ラッキーとはしゃぐ千石に聖花は失言だと顔をしかめた。
「口説かれちゃった?ドキッとした?」
鬼の首でも取ったように千石は嬉々として聖花の少し赤く染まった顔を覗き込んだ。
千石の視線から逃れるように聖花は顔を逸らす。
「もううるさいよ」
「だってあの聖花をドキッとさせたんだよ〜」
「ドキッとなんてしてないっ」
「ホントに?」
「ホントに」
「ホントに〜?」
「…ホントに」
「ホン」
「しつこい」
不毛なやりとりをぴしゃりと終わらせる聖花の一声、横目の一睨みに千石は口を噤んで肩をすくめてみせた。
聖花を怒らせたいわけではない。
「聖花」
だから、静かにその名を呼んだ。
静寂が際立つように、ただ静かに。
聖花が千石を見れば真摯な視線と視線がぶつかる。
千石は柔らかに微笑んで、机に置かれていた聖花の手に触れた。
何度言っても、足りない言葉があるんだ。

「好きだよ」

最後の人に出会えたよね。


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