:: 寂しいと、


あたしが寂しいと、死んじゃう生き物だったらよかったのに。



「ねぇ、寂しいと死んじゃう生き物知ってる?」
私がそう尋ねたら、幸村は一瞬眼を見開いてあたしのことを意外そうにじっと見つめて、それから笑って口を開いた。
「知ってるよ。うさぎだろ」
「…何今の顔」
「まさか聖花がうさぎを話題に出すなんて思わなかったから」
「失礼な」
くすくすとおかしそうに笑ってくれる幸村をじろりとにらみ続けていると、幸村は笑いを押さえようとしながら「あぁそうだ」と言い出した。
「うさぎってさ、ある意味人間に似てるよね」
言われて少しドキッとした。のに「雄の方」と言われて心が冷めてくのがわかった。
「…すごく微妙な話の予感がするけど、なんで?」
「万年発情期。人間と一緒だろ」
「…サイッテー。オンナノコの前でそういう話を持ち出しますか」
「何言ってるんだか。こういうのは女子のが詳しいだろ?」
まぁ少年漫画は下ネタ止まりだけど少女漫画は普通に男と女のベッドシーンとか出て来ますよ?ティーン雑誌に普通に特集組まれてたりしてR指定ってなんのためにあるんだろうとか思ったりもしますけ、ど。
「あたしはそういう話は嫌いなんですー」
「ピュアぶっちゃって」
「おまえほんとムカツクな」
分かりやすく機嫌を損なって見せれば幸村はまだ笑いながら、それでももうはぐらかすのをやめた。
「で、聖花。寂しいと死んじゃう生き物がどうかしたか?」
「いや、知ってるのかなぁって思っただけ」
「ふぅん?…でもうさぎってほんとに寂しいと死ぬのかな。聖花知ってる?」
「知らないよ」
「まさか実験するわけにもいかないからなぁ。蓮二にでも聞いてみるか」
部活の日誌を書きながらひとりごちる幸村をただじっと見つめて。
それから教室の窓を見た。夏の青さはあんなにも逞しかった入道雲を溶かしたかのように薄くて、日差しが緩やか。

あたしが寂しくて、死んじゃう生き物だったらよかったのに。
もしそうだったら、きっとあんたはあたしを捨てられないんだ。
でも独りにさせてほっといて寂しくて寂しくてあたしが死にそうになったら優しく手を差し延べるようなそんな男だおまえはよ。
なんて嫌な奴だ。
そんな男だと分かってるのに死ぬ前に手を差し延べてくれることを知っているからあたしはおまえを捨てられないんだ。
なんて、嫌な循環。

黙り込んだままぼんやりと空を見つめていたあたしに一昨日の部誌を書き終えた幸村が声を掛ける。
「聖花?」
「分かること一つあった」
「なに?」
「おまえは酷い男だ」
幸村を見つめて真面目にそう言い放てば幸村は少しきょとんとしてあたしを見つめたがやがて、笑った。



「何を今更」


 

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