:: Happiness to you.


夏の太陽は容赦なくアスファルトを焼き、広がる青空は作り物のように青い。

照り焼かれ蒸し焼かれるような感覚に襲われながらも、幸村は炎天下、病院に行くため早退し帰路についていた。

不意に緩やかな川辺りに座り込んでいる人影を見付けた。

近付けばそれは知り合い。それも今日学校を欠席していた奴だった。

「聖花?」

その声に反応して、聖花は顔をあげた。

だが声の主を目で確認すると、また視線を下げてしまった。

「なによ」

「今日は、学校サボりじゃなかったか?」

「サボりじゃないわよ、自主休講って言って頂戴」

「随分バージョンが上がるんだな…」

くすくすとおかしそうに笑う幸村に構わず、聖花はなにやら黙々と目を足元の草地に走らせていた。

「なにしてるんだ?こんなところで」

尋ねられて、聖花の動きが止まる。

そしてぽつりと言う。

「幸せ探してんの」

そう言う聖花は緑の絨毯に手を伸ばし、時折逆撫でるように手を滑らせている。

「ふーん…」

曖昧な相槌をうち、幸村が座り込んでも聖花はその手を止めない。

二人の間に会話もなく、柔らかな風は二人を撫で雲を押し流していく。

「なぁ」

「んー?」

その様子を見守っていた幸村だったが、聖花を見ずに声をかけた。

聖花も幸村を見ずに返事をする。

「クローバーの花言葉、知ってるか?」

「知らない」

「『私を想ってください』って言うんだよ」

「ふ〜ん…」

「で、さらにもう一つ雑学ついでに教えてあげようか」

「なに?」

「それ、クローバーじゃないよ」

「…は?」

聖花の動きが止まる。しばし硬直する。

やがて軋んだ動作で幸村を見た。

幸村は微笑みながらその葉を指差した。

「それはカタバミ。少し葉の形が違うだろ?それに、黄色い小さな花が咲いてるし。ちなみにクローバーっていうのは白詰草の別称」

幸村の指先を追いながら、聖花の顔がしかめられていく。

「…早く言ってよ」

「あんまりにも真剣に探してたからつい、ね」

「なにがついよ。確信犯のくせに」

「ふふ、やだなぁ。俺だってそんなに悪人じゃないよ」

「どうだか」

へそ曲げ気味に寝転んだ聖花の網膜を鋭い太陽光が射抜き目を細める。

腕で光を遮りながら隣を見れば逆光でよく見えないが、幸村がまだ笑っていた。

聖花は今度こそ口までへの字にして、顔を背ける。

片手でしっしと追い払うかのように訴えた。

「さっさと帰れば?そっちこそなんでこんなとこいんのよ」

「今日は病院なんでね。そうだ、聖花の気分を害したお詫びにいいものあげるよ」

「いいもの?」

現金なまでにくるんと方向転換した聖花は、幸村が鞄からなにかを取り出すのを見つめる。

「はい」

差し出されたのは、しおり。

押し葉がされていて押されているのは、まさしく四葉のクローバー。

「あ」

「昨日庭で見付けてね。ちょっと作ってみたんだ。あげるよ」

「いいの?」

「いいよ。俺は別に探してたわけじゃないし」

そろそろ帰らなきゃと幸村は腰をあげたが、聖花はまだ寝そべりながらしおりのクローバーを見つめていた。

「じゃあまたな」

「おぅ」

「聖花」

「ん?」

顔をあげれば、幸村は静かに微笑っていて。










「君に幸あらんことを」













静かに言われた言葉に、聖花は眉一つ動かさずにしばらく幸村を見つめていたが、やがておもむろに口を開いた。

「恥ずかしい奴」

「ふふふ」

小さくなる後ろ姿をしばらく見送って、手元の四葉のクローバーを眺めた。

「『私を想ってください』…ねぇ」

呪いでもかけられてんのかなこれ。

そう想いながら空にかざしたしおりは、青い空によく映えていた。


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