:: 運命感じました


高校生活も最終学年になった。最後のクラスの発表の掲示を前に、瑠花は心底嫌そうな顔をして舌打ちをした。
「…またおまえと同じクラスか…。なんなのあんた、私のこと好きなの? ゴメンね、眼中にないや」
「自意識過剰女乙。だがまぁおまえの暴言も今は許してやるよ。今日からうちに、キセキの1人が来るんだからな」
瑠花の暴言にも、その言葉をぶつけられた福井は機嫌よさそうにニヤニヤと笑みを崩さない。そんな福井の態度と発言に、瑠花は訝しげに眉を寄せた。
「キセキって、黄瀬涼太? え、あれうちに来んの? マジで? やだ、ちょっと入学式紛れてこようかな」
「ミーハー乙、あと勘違いザマァ。黄瀬じゃねーよ。うちに来んのは紫原。DFの要だっつの」
バスケになど欠片も興味のない瑠花でも、モデルをやっている黄瀬涼太は知っている。特別ファンでもないけれど、見られるのならばこの目で本物を見てみたい。
だがいきり立った瑠花を福井はあざ笑って、紫原についての説明を付け加えようとした。
「紫原はやべーデカくて、身長も200超えてんだろ。で、手足も…」
けれど瑠花はそれを遮って手を振った。
「あー。いいいい、興味ないから。ってか2mオーバーとか、岡村だけでいいんですけど。圧迫感ぱないし、むさ苦しいし鬱陶しい。バスケ部ってもう一人そんなんいなかったっけ? そんなんばっか集めて雅子ちゃんなに考えてんだか」
じゃあねと手を振って瑠花は教室へと向かった。数時間後の出会いを知らずに。



担任の話を聞き流して、瑠花は窓の外を眺めていた。ちょうど新入生がゾロゾロと歩いているのが見えた。若々しいねぇ初々しいねぇとたったふたつしか違わない後輩達の姿を見下ろしていたが、その列から頭いくつ分も飛び出している一際目立つ紫の髪に瑠花の目は釘付けになっていた。
なにあれ可愛い。
瑠花はもうその存在から目を離せない。目を見開いて開いた唇がわななく。今すぐ教室を飛び出してしまいたかった。だがそれはできない。HRが終わるのを待って、瑠花は教室を飛び出した。



「君っ、君、そこの紫の髪の子!!」
一年生の階に駆けつけて片っ端から教室を覗く。いない。何処に、と辺りを見回して廊下で先程見たのと同じ色を見つけたときは思わず叫んでいた。
瑠花の声に反応して、彼は足を止めて振り返った。
「? 俺?」
見間違えることのない、先程の新入生だ。やっと見つけた。思わず笑みを零して駆け寄った瑠花はそこで初めて気が付いた。大きい。頭いくつ分も大きかった時点で大きいことはわかっていたが、予想以上に大きい。
目を瞬かせている瑠花の前で、新入生は首を傾げて問いかけてきた。
「何か用?」
サクサクとお菓子を食べながらのんびりと問いかけてくる声に、首が痛くなる程の高さに戸惑っていた瑠花は我に返った。思わず探して声をかけてしまったけれど、どうしよう、この先のことなんてまるで考えていなかった。
黙り込んでしまった瑠花に、紫原の方が口を開いた。
「まぁいいや。ねー、体育館知らない? 迷っちった」
「た、体育館?」
「そう、部活行かなきゃなんないんだけど、辿りつかなくてさ〜」
部活。その言葉に、瑠花は朝の福井の言葉を思い出した。
「紫原、くん?」
「? なんで俺の名前知ってんの?」
「だって君、キセキの世代? ってやつでしょ。有名なんでしょ。あ、でも下の名前知らないや」
「敦。なに? バスケやんの? えっ、と」
言葉を切って首を傾げる紫原に、瑠花はピンと閃いて言った。
「瑠花、水乃星瑠花。ちなみに体育館はこっちね」
名乗りながら瑠花は曲がり角で紫原を手招きする。
「バスケはやんないけど、バスケ部員と同じクラスだったから。なんか雑誌で見た」
「ふーん」
サクサク小気味良い音が響く。
「…お菓子、好きなの?」
「好きだよー。食べる?」
「あ、ありがと」
差し出された菓子袋から菓子を取り出して瑠花もサクサクと食べる。だらだらと歩いていればもう体育館も間近。バッシュがたてる高い音が聞こえてきた。
「着いた着いた、ありがとね〜。えーっと、水乃星さん」
のっそりと紫原は部室へと消えて行く。その後姿が見えなくなるまで見送って、見上げすぎて痛くなった首を瑠花はぐるりと回した。
そんな瑠花を見つけて、岡村が声をかけた。
「水乃星、そんなとこに突っ立ってどうしたんじゃい」
「岡村…」
ギギギと軋んだ音をたてるような動作で瑠花は岡村を見上げた。そして服を掴む。驚く岡村など気にも止めずに瑠花はどこか茫然とした様子のまま言った。



私、あの一年生が好き。紫原敦が、好き。


 

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