バスケに青春の全てを捧げた高校生活を無事に終了させ、大学に入ってから所謂ルームシェアというものをしている。

…いや、正しくは同棲、なのだろう。

相手は一年間共にスタメンとしてコートに立ったチームメイトである宮地清志その人だった。
忘れもしない。先輩が最後の大会として挑んだあのウィンターカップで赤司率いる洛山と戦い、負けてしまって。大学へと歩んで行った先輩は引退したというのにも関わらず結構な頻度で部活に顔を出していた。そのとある1日に告白されたのだ。

正直、嬉しかった。
俺は先輩をそういう感情、属にいう恋情というもので慕っていたが叶うことないと、そう決めつけて先輩の卒業を機に諦めるつもりだったから喜びもひとしおというものだろう。
晴れて両想いという事実と恋仲という関係を手にいれたまでは良かったが、当時の俺はまだ高校生だということもあり、特に進展もないまま高校卒業まで過ごした。

『「緑間ァ …合格、おめでとさん」』

大学の合格発表の日、合格の旨を伝える為に先輩に電話をかけていれば背後から二重に声が聞こえて、振り向いたらそこに先輩が居た。そのとき手渡された真新しい鍵。「一緒に暮らすぞ」という言葉に頷いてから、こうして2人で暮らしているという訳である。

「緑間、晩メシなにが良い?」
「先輩に任せるのだよ。今日は帰り早いので何か入り用の物があれば買って来ますが」
「あー…、じゃあ卵としょうゆと、なんかDVD見るときに食べたい菓子買ってこい。
それと今日は7時に帰ると思うから洗濯物は任せても大丈夫か?」
「了解なのだよ。最近は物騒だし夜道は気をつけてください」
「お前もな」

理工学部と医学部。どちらも忙しい学部に通っているから朝はあまり一緒にいる時間が無い。夜の日程を話しながら先輩の作った朝食を胃の中へと送る。何時まで頑張れば先輩と会えるのか分かるその時間は、嫌いではない。
今日は俺の出る時間が早かったので洗い物は先輩に任せることになり、家を後にした。徹夜明けだからか少し気怠そうに見送ってくれた先輩も俺の目にはなによりも格好良いものに見えるのは惚れた欲目か。


「ねー真ちゃん。
真ちゃんってあんまし好きなモンに好きとか改めて言わねえじゃん、それって宮地サンに対してもそうなの?」
「は、」

同じ大学の体育学部に通っている高校時代の相棒、高尾和成と昼食を共にしている最中。高尾はたまに机に肘をつけて食べるから、それは行儀が悪いと何度注意しても直る気配はない。

「宮地さん結構カオに出やすいタイプだし真ちゃん関連で何かあったらそりゃーもうカオゆるっゆるなワケ。最近そーいうカオ見てねえから真ちゃんに問題アリかな、とか考えてみたんだけどさー」

先輩は確かに顔に出やすい。好きだというアイドルのDVDを見ているときなんか終始頬が弛みきっている。その度に本当なら先輩はこういう、小さくて可愛らしい人と付き合っているはずなのだと思ってしまうことがよくあったがそれは先日先輩が俺に言葉で伝えてくれたからもう気にしないことにしている。

「俺に、問題か」
「そ。ちゃんと気持ち伝えてんのー?」
「…そんなに易く伝えるようなものでもないだろう」
「何ソレ、真ちゃんのデレ高すぎっしょ!」

何が原因なのか解らないが腹を抱えて笑い出した高尾に静かに食事が出来ないのかと呆れを感じながらも思考を巡らせる。

先輩は、最近元気の無いように感じたが俺が原因なのだろうか。

「おっ 考えてんねー真ちゃん!そんな健気な真ちゃんに和成くんから宮地サンが喜んでくれる素敵な情報プレゼントしちゃおっかなー」

"耳貸して"と向かい側から少し腰を浮かせて顔を近づけてくるものだから仕方なくこちらからもそうして距離を短くしてやる。先輩が喜ぶ、と聞けばそれを叶えたくなるのは恋情に溺れているという証拠なのか。


*


「ただいま」
「…おかえりなさい、宮地さん」

午後7時、少し寒そうにしながら先輩が帰ってきた。
申し訳無いことに俺は料理が不得意である。どんなに先輩より早く帰ってくることがあってもそれをするのは先輩の役目となっていた。まあその代わり、そのほかの家事は大体のものをこなせるようにはなっている。

「今日は寒ぃから鍋な」
「キムチ鍋じゃないですよね?」
「足りめーだろ、高尾じゃあるまいし」

食事の支度をしに奥へと入るすれ違いざま、安心しろとでもいう風に俺の頭を撫でていく。全くこの人は、俺がこうされるのを好きだと知っている筈なのに卑怯でしょう、それは。

「…緑間。聞いてんのかよ、今日のメシ気にいらねえの?」
「…そ、んなこと、ないのだよ。」

軽く今日お互いの学科であったことなんかを話しながら箸を進めていたがいまひとつ身が入らない。勿論理由は分かっている。この後やろうとしていること、そのことを考えるとどうしようもなく気持ちが高揚していくのだ。緊張とかそういう類の感情で脳内が占拠され、心の臓がせわしなく音を発ててしょうがない。

食事を済ませ食器の片付けなどを手分けしてしていれば、先ほどの返事からオレのことを訝しんでいることは先輩の表情からありありと汲み取れる。まさかこれほどまでにこの人に素直な気持ちを伝えるのに勇気が必要とは思ってもみなかった。思い返せば先輩が伝えた言葉に同意して、同じような言葉を返すばかりで、自分が先手となって伝えるようなことはなかったように思う。だが、伝えなくては。『コトバにしねーと宮地サンもアイソつかしちゃうかもよ?』なんて、あいつのあの言葉を信じた訳ではない。

「先輩。」

きゅ、と先輩の服の裾を握る。羞恥からか握ったその手が震えるのを見なかったことにして、視線を先輩と絡めた。琥珀、という色だろうか。澄んでいて綺麗な色だといつも思う。その目にしっかりと俺の像が映り込んだことを確認し、言葉を紡ぐ。

「…好き、なのだよ」

言った。言ってしまった。顔に身体全体の熱が集まってるのではないかというくらいに火照っているのが分かる。思わず顔を伏せてしまったが、何も反応を見せない先輩に居たたまれない気持ちになる。沈黙を破ったのは先輩だった。

「緑間、こっち向け」
「…はい」

有無を言わせない言葉の圧力のようなものに従って先輩の方を見るが、射抜くような目で見つめられれば再度視線を下げてしまった。

「逸らすな、ちゃんと目ぇ見てろ!」

殆ど無理矢理のような形で顎を引かれるとそこには、視界いっぱいに俺の、すきなひとの顔があった。

「…好きだ」

彼の顔は少し赤みがかっていたのではないだろうか。柔らかい蜂蜜色の髪が肩口に縫いつけられるように先輩が顔を埋める。それに合わせて俺も腕を伸ばし、先輩の背中の方へと回した。




…ああ、もう、心臓がばくはつする!




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