※ 先天性女体化宮高 * ♀×♀







 好きになったのは、たぶんあたしから。
 そんでもって、あの人があたしのこと好きになったのは、完璧超人的なあたしの親友ちゃん風に言うと"運命"ってやつなんだと思う。
 …なーんて、よくある少女マンガとかの書き出しみたいになっちゃったけど、あたしの恋人さんは本当に可愛いひとで、あたしなんかと付き合ってるのはおかしいんじゃないかなあ、なんて。いや、ほんとに。

 *


「高尾。」
「はあい、ちゃんと分かってますって。」

 朝練の後、宮地さんの髪に触れるのはあたしの特権。シャワーを浴びたあとだから少しだけしっとりしてて、それでもふわふわした感じは残ってて。宮地さんはたまに、いつも任せててごめんなんて言うけどむしろあたしは喜んでしてる。
 女の子が他人に髪を触らせるなんて、気を許したひとだけだと思うし。謝られたりしたらなんか申し訳なくなっちゃう。
 あたしの下心なんて知らない宮地さんはいつも、「適当でいいから」なんて言ってるけど。好きな人のこと可愛く出来るなんてみんなが持ってる権利じゃないし、恋人さんの可愛いところ見れるなら全然頑張っちゃう。
 そりゃ、他の人に見られるのはなんか少し勿体ないって思うけど、そこは割り切るしかないよね。


「宮地さん、出来ましたよ。」

 手鏡を渡しながら仕上げとばかりに正面から前髪をなぞるフリして上目使いの宮地さんを見る。こんな時じゃないとあたしは宮地さんの身長に勝てない。
 宮地さんは目が大きくて、童顔っていうのかな。私と並んでたりしてもたまに同級生に間違われたりする。身長は私より大きいけど、女の子の身長って結構個人差大きい気がするし、その度に少し落ち込む宮地さんは可愛いし。

「…ん、ありがと。」

 手鏡を持ってどうにか全体を見ようとするから、スカートのポケットに入れてあった鏡を使って見易いようにしてあげた。少しびっくりしたみたいに目を何度かぱちばちまばたき。

「高尾、やっぱあんた器用だね」
「そんなこと無いですよー。かわいくなるお手伝い出来るんなら嬉しいくらいですって」
「はいはい。…あんた女で良かったね。男だったら間違いなく誤解生んでた、今の」

 わりかし真面目な表情で言うから、言葉に詰まる。そうだよね、あたしと宮地さんが女の子だからこそ成り立ってる関係だもん。何百万、何千万分のいちの確率であたしが男だったとしたら。間違いなくあたしはこうして宮地さんに触れないんだろう。

「……ねえ、かわいくなってる?」

 不安そうな顔でじいっと見つめてくるから、じいっと見つめ返す。

「かわいいですよ、ちゅーしたくなるくらい」
「…はいはい。」

 あは、って笑顔をつけるのも忘れずに。あたし好みの髪型になってる宮地さんはあたしからすれば、キセキの黄瀬とか、雑誌に載ったりしてる女の子なんて目じゃないくらいにかわいい。
 かわいい、って言うといつも少しだけ顔を赤くして目線を泳がしてぶあいそに返事を返してくる宮地さんがさらにかわいくて。

「このセット、雑誌で見たときから絶対宮地さんに似合うと思って頑張って覚えてきたんですよ。やっぱりあたしのホークアイには狂いナシってことですね!」
「…ふうん。わざわざ、覚えてきてくれたんだ。」
「モチロンですよー!」

 宮地さんはそのまま鏡を覗き込んで軽く身支度を整えてる。あ、そのリップ新色でしょ、そんなにあんまりかわいくしちゃってあたしがいないとこでどんだけ男の子誑かしちゃうんですか、ねえ。いつもより少しだけ明るいあかいろに少しだけ嫉妬しちゃいますよ。そんなのに余裕持てるほど、あたしはまだおとなじゃないんだから。

「ほら、高尾。」
「へ、」
「予鈴もーすぐ鳴るから急ぐよ。こっから教室遠いんだから。」

 ため息つきながらも手を差し出してきてくれる宮地さん。ゆるく握り返したらもうちょっとちゃんと握れだって。ぎゅ、って握ったら一気に引っ張られて宮地さんとの距離がぐんと近くなった。あ、宮地さんの制汗剤のにおい。柑橘系のそれって、あたしが前に好きってゆったから使ってくれてるんですか。

「ばーか、間抜け面。」
「宮地さんなんかいますっごくかっこよかったんですもん。」
「だってあんたの彼氏だもん、あたし。」
「やだ!宮地さんせっかくかわいいんだからあたしが彼氏になるもん。」
「ハイだめー。」
「ひどい!」

 さっき塗ったリップで大人っぽく見えてた口元があたしに向かって笑って、少しだけ子供っぽくなる。ちゃんとあたしの宮地さんだ、なんて。メイクは女の子を変身させちゃう魔法なんだからいちいち言っててもきりがないのに。

「…あ。」
「なあに宮地さん、忘れ物?」

 手をつないで歩いてたら思い出したみたいに後ろを振り向くからあたしも一緒に止まる。もう取りに帰る時間ないよ、授業に遅れるのだけはきらいなんでしょ?って思ってたら宮地さんがじっと見てきた。なあに宮地さん、あたしまだ悪いことしてないよ。

 さっきと同じ匂い、グレープフルーツって言うのかな、なんて。その果実とおなじ色で視界がいっぱいになる。
 

「リップ、少し塗りすぎてたみたいだから。」

 お裾分け、って言ってにっこり笑う。あんまりびっくりして上手に動けなくなったあたしを見たら、遅れるから先に行くだなんて待って待って。

 あんな風に仕掛けるキス、どこで習ってきたんですか。あたしがちゅーしたいって言ったからですか。自分からしたくせに耳が真っ赤ってどーいうことですか。ねえ。あたしがあんたのそーゆーとこ大好きなんだって知ってました?





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