「ねー宮地サン、お買い物行きましょ?」
「なんで」
「なんでも。ね、お願いしますよー」


そんなやり取りをして、あざとく首を傾げる高尾に宮地が絆されたのはほんの数分前。高尾に言われるまま、今は二人仲良く並んで歩道を歩いていた。
吐き出す息は光と空気と埃によって白く見える。もうすっかり冬なんだと寒さに身を縮める。
隣に立つ高尾は相当ご機嫌のようで、鼻歌なんかを歌う口元が緩みきっていた。

「つーか、なに買うんだよ」
「まずはケーキ屋行ってホールケーキ買い行って、こないだすっげーかっこいいリング売ってる店あったからそこ行きたい。」
「へー、後は?」
「スーパー行って、今日の晩飯の材料っすかねー」
「ん。じゃあとっとと行くぞ、さみぃ」
「ういっす!」

少し早足で進み始めればそれに合わせるようにして隣から聞こえてくるリズムも速まる。
自分より幾つばかりか靴のサイズ。たった数センチ、されど数センチ。
その事実が可愛らしく感じて、それでもそれを口にするのは何となく恥ずかしくて、宮地の胸の内でずっと漂っている。
口にしなくても分かってくれるって言うのは甘えでしかないと理解はしているのだか、他者から所謂"ツンギレ"と称される宮地は中々にそれを口に出せずにいた。

店から店へ梯子すると高尾は「宮地サンはどれがいいっすか」と毎回毎回繰り返して聞いてきた。答えを言うまでは何度でも聞いてくるし、答えてやればやったで嬉しそうな顔をして笑うものだから繰り返し質問されるのも嫌ではない。つられてこっちまで頬が緩んだときに指摘してくるのはいただけないが。
買い物を全て済ませ、スーパーから出れば高尾が後ろを歩く宮地の方に身を翻してにこにこと笑みを浮かべていた。今日は一日ご機嫌のようだ。

「へへ、久々のデートっすね」
「どーせお前のことだからまた我慢してたんだろ、馬鹿が」
「ひっでー。宮地サンが頑張ってるからひたむきに応援してるだけなんすけど!」
「…だから、たまには甘えて来いってことだよ察しろ、轢くぞ」
「やぁだ、宮地サンいっけめん!」

左手に荷物を持ち替えて車道側を歩く宮地の右肩より少し下のあたりに顔を寄せた。こうやってなにも言わずに車道側歩くところとか、本当に男前だと思う。この扱いを受けるのが自分だけなら良いのに、なんて、それくらい宮地に惚れ込んでいるのは自覚はある。
部屋を出たときよりも薄暗くなった空に、白い息をまた一つ零した。


「で、なんだったんだよ今日の買い物」

夕食を囲んで、食器を二人で片づけているときに高尾に尋ねる。
スーパーでの買い物袋をひっくり返してみると真っ白なカーテンやカラフルな蝋燭に細やかに造られた造花など全くと言って良いほど統一感がないものが入っていて、高尾の考えが読みとれなかった。

「んー…、宮地サン、明日何の日か知ってる?」
「明日、は…1月27日か。なんかあったか?」

泡のついた手を洗って言うからタオルを渡してやり考える。誰かの誕生日でもないし、記念日でもなかったはず。そんな思考回路を見抜いてか悪戯を計画している子供のような表情でちょっと待ってて、と背中を押されてキッチンから追いやられる。待て、1月って廊下冷え切ってて寒いんだぞ。
宮地の耳にはぱたぱたと部屋を駆けている音が届くのみ。わざわざ買い物に付き合わせるくらいだから高尾にはなにか考えがあったのだろう。少なからず期待しながら目の前のドアが開くのを楽しみにしているのだ。

「…宮地サン、寒かったでしょ、ごめんね。入っていーよ。」

ドアの近くで声がする。近くに居るのならそちらから開けば良いんじゃないか、などと考えつつドアを開く。その瞬間高尾が部屋の照明を全て消した。
真っ暗かと思えばそうではない。今日買ってきたカラフルな蝋燭に灯った橙色がゆらゆらと燃えてきた。先ほどまで閉めていたはずの窓のカーテンは開け放たれていて、そこから入る月明かりも幻想的な雰囲気を醸し出していた。

「明日は求婚の日なんだって、真ちゃんが教えてくれた。」

だからさ、と耳打ちしてきた内容に驚くと同時に少し頬を赤らめて言う高尾へどうしようもない愛しさが沸く。なにコイツ、超可愛い。
そんな可愛い恋人の願いなら仕方ない。そっと体温の低い手を握って包み込んでやる。靴のサイズと同じように、高尾の手は宮地よりも小さい。15cmも身長が違えば当然なのかもしれないが。
意を決して息を吸い込み、高尾と目を合わせる。

「高尾」

「俺はお前みたいに気が回んなくてお前を不安にさせるかもしんねえ」

「でもな、和成の隣に居んのが俺はいちばん幸せ」

「そんで、お前も俺の隣にいるのがいちばん幸せって思ってくれるようにするから、」



「だから、俺と。…結婚してください」

そう言って高尾を見れば、俺のいちばん好きな顔を浮かべてた。
腕を引いて抱き寄せれば、指通りの良い黒髪を胸当たりに擦り寄せてきた。


「…喜んで、清志サン。」








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