そろそろ前が全く見えなくなってきた。アメピンでごまかしてきたけど限界だ。元々長めの前髪は忙しさにかまけてまったくカットしていなかったせいでそれはもう重たい、カーテンのように育ってしまった。自分で切るしかないのかな……梳き鋏あったかな……ダ・ヴィンチちゃんとかそういう便利アイテム持ってそうだから聞いてみよう。 「そこの君!」 後ろからイイ声に呼び止められた。振り向いて確かめようとしても前髪のお陰で足元しか見えやしない。右手でかき分けて声の主を確認する。 「……バーソロミューさん」 「君! いいね実にいい!」 「はあ」 お噂はかねがね、と口が滑りそうになるのを我慢する。まずい、よりによってピンを持っていないときに捕まった。慌ててセンター分けにしておでこを作ってみる。 「そういう無粋なことはやめなさい」 「あう」 腕を掴まれて文字通り目の前が真っ暗になった。 「完璧だね、こんなに素晴らしいメカクレは久しぶりに見た。君はここの職員かな? マスター以外の女性はあまり知らないんだ、すまない」 「あ、はい、そうです、それじゃ」 「まあ待ちたまえよ! どうせ暇だろう。私の部屋に来てくれないか」 嫌な予感しかしないんだけど……。こういうときみんなどうやって躱すのだろう。用事があって、なんて取ってつけたようだし、実際暇だし。わたしは曖昧に頷いてみた。バーソロミューさんはそれなりに紳士だと聞く。だったらこの複雑な表情から読み取ってくれないだろうか。 「ありがとう。じゃあ私の部屋でゆっくりしようか」 しまった。前髪で表情は見えないんだった。 強引にお姫様抱っこをされてしまい、わたしは抵抗もできず縮こまってバーソロミューさんにされるがまま。 痛いことだけはされないといいな、なんて。 ベッドの上でわたしはかたかたと震えていた。 逃げて逃げて背中に壁がついて逃げられなくなって、眼前には目も当てられないくらい興奮したバーソロミューさんがいて、まったく意味がわからない。もしかして無理やり、されてしまうんだろうか。そんなのってない。わたしは魔術師の端くれだけどサーヴァントに魔力を供給できるほどのものじゃない、っていうか、彼はわたしのサーヴァントじゃない。混乱してもうなにを考えているのか分からなくなる。 「っふぅ……」 熱いお風呂に浸かったときみたいな息を吐いて、バーソロミューさんは前を寛げた。咄嗟に俯いて視界から完全に消す。前髪が長くてよかった、と初めて思った。 「君の髪は綺麗だね」 「そ、んなことないで、す」 そっと頭を撫でる指先。頂点をなぞるようにして、それからゆっくり横髪に指を通す。どきどきするし、ぐるぐるする。バーソロミューさんの指が耳に少し触れ、わたしは過剰にびくりとしてしまった。 「――ああ、ごめん」 その声音はいまから強姦するようなひとのものではなく、純粋に、耳に触れてしまったことを謝罪する優しいものだった。 もしかして髪に触れたかっただけ? いや、じゃあ性器を晒す必要はないはずだ。 長い指が前髪をさらさらと、なにか大切なものに触れるように撫でる。隙間からバーソロミューさんが見えた。なんか、近づいてる、気が、 「あ、あの」 「はぁ……っ、もう我慢できない……、っ!」 突然の大声にまたびくりとする。 「その髪で自慰させてほしい、痛くはしないから……っ」 「……う、ええっ?」 意味が、分からない。 また混乱するわたしの肩を掴み、バーソロミューさんはそれを前髪に潜らせた。 「ひっ、なに、なにっ!?」 近すぎてよく見えないけれど、たぶん彼のモノに前髪が絡み付いている。額にときどき亀頭が当たってひどくざわざわする。 「はあっ、あっ、すごく、かわいいよ……っ!」 にちゃ、にちゃ、と体液の絡む音が直接脳に響く。 「ああ、君は瞳も綺麗だ、すごくイイ……」 「あ、う」 背中の壁をこんなに恨めしく思ったことはない。こんなの、倒錯してる。目の前にはわたしの前髪をペニスに絡ませて一心不乱に扱くバーソロミューさん。確かに痛くないけど、けど……。 「私のがどうなっているか、分かるかな?」 荒い息のした、バーソロミューさんは問いかけた。 「えと、あの」 よく分からなかったので口籠る。 「いま君の目の前で、私はナニをしてる?」 「あ、あの、ひとり、で」 「ッあ、うん、ひとりで?」 「ひ、ひとりで、バーソロミューさんの、が……」 ぐちゃ、ぐちゃ、水音は絶えない。 「私のナニ?」 「お、おちんちん……っ、」 「そう、それがどうなってる、っ?」 「わかんな、い、です」 もう半泣きになりながら必死に返事をする。身を捩ろうとしても、彼は片手を壁についてわたしが逃げようとするのを阻止している。こんなに嬉しくない壁ドンがあるなんて! 「ほら、ッ、よく見て」 はらり、前髪が解けた。べたついた体液まみれなので額に張り付いて気持ち悪い。 今度は横髪を性器に巻きつけ、バーソロミューさんはわたしの目を見ながらはあはあと呼吸を荒くしている。 「なんか、出てます……っ」 「カウパーだよ、言ってごらん」 「や、」 「ほら」 「か、か、カウパーが、たくさん、出てます、あと、なんかびくびくしてて、っう」 もう自分でもなにを言っているのかよくわからない。とにかく離してもらいたい一心で口を動かす。そうすると彼の手の動きは激しくなって、表情も恍惚としたものになってゆく。「ああ……っ! 君は最高だよ……!」嬉しく、ない。 「イきそうだ、っ」 「はい……」 「髪にかけていいかな? いいよね、っ?」 「えっ、あ、だめ、だめです、!」 「はあッ、出すよッ、前髪に出す……っ!」 びゅく、びゅく、と生暖かい白濁した液体が前髪にぶちまけられた。髪を滑って鼻に落ちて、それから唇に降りてくる。反射的に舌で舐めとってしまい、すぐ手に吐き出した。どろりとした、紛れもなく精液だった。 「ふう……」 果てたバーソロミューさんはやたらとキラキラした笑顔で「いきなり悪かったね」と謝った。どう反論すればいいのかも分からなくて、わたしはただ首を横に振る。 「シャワーはここで浴びていくといい」 当たり前だ。こんな派手にぶちまけられて廊下を歩けるはずがない。 バーソロミューさんを睨んでみたけど、たぶんこの表情も見えていないんだと思う。 「ッ……、君、そんな顔で見ないでくれ」 顔、っていうか、メカクレだし。首を傾げて片目だけ露出させてまた睨む。ところが目の前にいたのは 「もう一回……っ、あと一回だけ頼む……っ!」 と鼻息を荒くするバーソロミューさんだったので、今度は眉上のぱっつんにしようとわたしは心に決めたのだった。 - - - - - - - |