×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




蛹と毒虫

 

――頼りない女だと思った。
 発育の悪い子供のように小さくて、貼り付いた笑顔はとてもぎこちない。指示を出す際にもやたらと腰が低く、勝っても負けても複雑そうな顔をした。喜びも悲しみも、女の中では同じ感情なのだろうと思った。
 反面、後輩だというデミ・サーヴァントは拙いながらもきちんとなすべきことをなして、そのうえでその女を庇っていた。だから、頼りない女だと思った。
「先輩は、背負いすぎているんです」
 デミ・サーヴァントはそうやって呟いた。俺に聞かせたのか独り言なのか、分からなかった。
 いくら頼りない女だとはいえ、俺が存在するためには彼女の存在は不可欠だ。こちとらいつ死んでも構わないという精神が根付いているのだが、誰もが俺を生かそうとした。生前と随分環境が違って、それはそれで面白い。コロッケ蕎麦も美味いし、ここに留まる理由は十分にある。
 ただそれでも、魔力供給だけは避けたいところだった。
 女を抱くのは嫌いではない。むしろ好んでいるといってもいい。その気になればサーヴァントを抱いてその気を満たすこともできると思うが、それでは全く意味がないことも十分分かっている。
 だからつまり、あの女を抱くことで存在できているという事実が、俺をひどく苦しめた。あの男も、あの男も、あの男もそうなんだろう。もしかしたら魔力供給を伴わない純粋なセックスを楽しんでいる輩もいるのかもしれない。それはとてもグロテスクだと思った。
「マスターちゃん、起きてる?」
 シミュレーション終わりに個室を小さくノックする。難易度の調整をミスったのかやたらとハードな戦闘を強いられてへとへとだ。存分に満たされていたはずの器がほとんど空っぽになっているのを感じた。
 ノックをしながら、寝ていてくれ、と小さく祈ったが「はぁい」という間の抜けた返事に迎え入れられ拍子抜けする。
「斎藤さんが来るの珍しいですね」
「んー、腹減っちゃってさ」
 それがただの空腹を指しているわけではないことくらい、マスターなら一瞬でわかる。僅かに引き攣った顔をして、それから「……明日は朝遅いので、大丈夫、です」と小声で応えた。俺はなんだかいまから悪いことをしてしまうような気がして、意味もなく頭をかいた。
 シーツを整えようと踵を返すマスターに後ろから抱きついて「朝までコースでいいってこと?」と軽口を叩いてみた。腕のなかで小さい身体が硬直する。ジョークのつもりだったが、ええと、とかあの、とか曖昧な言葉しか返ってこない。
「さ、斎藤さんに必要なら……」
「うん、じゃあお願いね」
 よいしょ、と後ろ向きのままベッドに押し倒す。できるだけ顔を見たくなかったからだ。あの怯えたような悲しそうな、それなのにきちんとこちらを見据える恐ろしく儚い表情は俺にとって恐怖――或いは畏怖の対象だった。
 制服が皺にならないよう手早く脱がせる。あっという間に下着姿になったマスターは、恐る恐るこちらを振り向いた。「あの、」前戯もなしにぶち込まれることを危惧したのかもしれない。俺ってそんなに鬼畜に見えるんだろうか。
 小さい傷がいくつもある背中をゆっくり舐める。生暖かい。女の味と匂いがする。ひくりと震える薄い身体を逃さないよう腰を掴み、うなじや肩にも舌を這わせた。傷だらけの皮膚はこの女が「背負いすぎている」ことを示していて、俺はそんな傷のひとつひとつを丁寧に舐めとる。こんな小さな身体には過ぎる傷を見せつけられて、どうして普通のセックスができようか。こうしているだけで十分ならよかったのに。
 下着をするりと脱がせて秘匿されている部分に指を這わせる。慣れているのか感じやすいのか、そこは簡単に指を飲み込むほどに濡れそぼっていた。
「んっ、う、っ!」
 つぷ、と中指を滑り込ませた。背中がびくりと跳ねて腰が逃げてゆく。「こら」指の跡が残るくらい強めに腰を掴んだ。痣になるかもしれないな、と思いながら。
「逃げないでよ。俺のこと嫌い?」
 などと意地悪なことを囁きながら膣内を優しく撫でる。「あっ、あ、ああっ」シーツを握っている指先が真っ白だ。可哀想に、震えている。そうすると俺の加虐心にも火がついてしまって「俺にされるの嫌い?」と無駄な問いかけをしてしまう。マスターは唇を噛んで応えない。それでいい、その反応が正解だ。
 蕩けそうなほど熱いナカをゆっくりと擦り、滴る体液を硬くなり始めた突起に塗り込む。「ひっ、」一際高い声。女の弱点はだいたい相場が決まっている。マスターだって同じだ。「や、やめて、いやっ」脚を閉じて抵抗しようとするので、無理やり上体を起こさせて膝立ちにさせ、羽交い締めにする。太腿を割り開き、わざとぐちゃぐちゃと音を立てながら愛撫を始めた。ナカを弄りながら突起を指の腹で捏ねる。ときおりピンと跳ねれば、短躯が面白いくらいに震えた。
「も、だめ、さ、いと、さん、っあ、あ!」
 人差し指と親指できゅうと摘む。「イイよ」耳を甘噛みして唆す。次の瞬間、生暖かい液体が女の股から漏れた。透明のそれがシーツにぼたぼたと垂れ、性の匂いがますます強くなる。
 快感はいいことだと思う。普段「背負いすぎている」女をこうして気持ちよくさせることが贖罪に近いことだと俺は思っていた。例え「いやだ」といわれても、それは口先だけの抵抗に過ぎないのだから。きっと。
「俺のもして」
 とっくに勃起していたものを取り出して、マスターの唇に擦り付ける。柔らかい。おずおずと口を開いて、きっとその小さい口には収まり切らないのに懸命に飲み込もうとする。健気でいじらしくて、どうしてそこまでしてくれるのか恐ろしい。「手ぇ使って」根本は両手で扱かせる。涙目になりながら性器を咥えている様は、とてもいいものに見えた。ああ、俺はこんな、いまにも潰れそうな小さい女を抱こうとしている。めちゃくちゃにしようとしている。俺が存在するために。
 罪悪感と背徳感が綯い交ぜになり、やがて興奮になって頭に血が昇る。
「も、いいよ」
 下手なりに一生懸命口淫していたところを引き剥がす。マスターはけほ、と咳き込んだ。俺の体液に滑る唇がやけにいやらしかった。
 まだ震えている膝裏を掴んで熱い部分に性器をあてがう。すう、と深呼吸して一気に貫いた。
「やっ、やあっ、いや、いやっ!」
 ベッドの端に頭をぶつけるように身を捩る身体を抱き寄せ、やや強引に腰を進める。先端が最奥を突いた。「ひ、っう、いや、あっ、いや……っ」彼女の拒否の言葉はむしろ心地よかった。そうだ、拒んでくれ。俺が、俺のためだけに、この身体を抱き壊そうとしているのだから。俺みたいないてもいなくても問題のない存在が、あんたを傷つけるのだから。
「ッ、ぐ、お……っ」
 ぎゅう、と締め付けられて思わず声が漏れる。食いちぎらんばかりに締め付けるナカからゆっくりと竿を引き抜き、カリが入り口に引っ掛かったところで止める。背中が快感でぞくりと震えた。「やべぇ気持ちいい……っ」そのまま間髪入れず子宮口に叩きつけるように抽送を再開する。
「うっ、あぅ、さいと、さ……っ、あ、ああっ」
 甘い声は彼女が確かに快楽を得ていることを示していた。ぎしぎしと唸るベッド、混ざり合う互いの汗、邪魔な前髪。
「くるし、っ、は、ァ、あ……っ!」
 そう、そうだ、もっと苦しんで、俺を拒んで。快楽と憎しみでめちゃくちゃになってくれ。こんなこと、したくないと思っていてくれ。背負わなくていい、本当なら俺なんて背負わなくていいんだ。
「ッ、イきそ……っ」
「んっ、んんっ、う、っあ!」
「……出す、ッ! 出すよマスターちゃん……っ」
 ぐ、と精液が迫り上がる。もう数え切れないくらいの「やだ」を聞いて、俺はマスターのなかに長い射精をした。
「は、あ、ァ……」
 性器を引き抜くと、膣から白濁した液体が溢れ出てきた。汚らしいな、と思う。自分が出したものなのに。
 ぐったりとシーツに沈むマスターは虚無の目をしていた。俺が望んでいる目だ。こんなことしたくない、触れてほしくないと思っている女の目だ。
 ベッドを軋ませ、俺は馬乗りになってまた硬くなってきたものを頬に押し付ける。
「朝までしてくれるっつったよね?」
「……っ、はい」
「しんどくない?」
「わ、わたし、これくらいしか、できないから」
――ああやっぱり、なんて頼りない女なんだ。でもそんな頼りない女のために存在している俺は、きっともっと頼りない存在なんだ。

- - - - - - -