綺麗な瞳だなあと思った。 硝子みたいに透いていて、曇りがない。何か穢れたものを映せば、直ぐに曇ってしまいそう。 その瞳から零れる涙も好きだ。長い睫毛を濡らし目尻を伝って寝具に染み入る涙は、瞳と同じくらいに綺麗だから。 僕も医者の端くれであるから、眼球が涙を作り出す訳ではないと知っている。だけど、この子に限っては特別。この瞳あっての、涙。それで良いんだ。 僕が考えていることを知ってか知らずか、彼女は行為中に決して眼を閉じない。どんな苦痛を与えても、いくら羞恥を煽っても、ずっと僕を見ている。綺麗な瞳に涙を浮かべて。 「名前ちゃんの眼、綺麗だね」 涙を舐めとって言う。 「ね、本当に綺麗。食べちゃいたいくらいに」 どんな食感なんだろう。柔らかいのか硬いのか。甘いのか苦いのか。矢張り涙と同じように塩辛いのか。 彼女は瞬きを数回した。月の光が映り込んだ瞳が、頼りなく揺れている。 「……食べちゃいたい、ですか?」 唇の隙間から可愛い声。その声も揺れていて、動揺が伝わる。僕ならやりかねない。それを知っているから怖いのだろう。 「うん」 返事を聞き、名前ちゃんは眉を顰めた。涙がつうっと滴る。勿体無いなあ、せっかくの綺麗な涙なのに。 また顔を近づけて舐めようとした。 「やぁ、ッ!」 身体を動かしたら、彼女の善がる処を突いたらしい。小さい身体が引きつり、僕の差し出した舌が目尻から逸れてしまった。 そのまま舌が眼球にぶつかる。 「ひ、ッ、あぁっ!」 それは嬌声というより、悲鳴。 と同時に、彼女のなかが狭くなった。 僕の内側で何かが音を立てて弾ける。──我慢が出来なくなった。 指で右目を閉じられないように固定してから、舌を伸ばす。名前ちゃんが何かを喚いているが、聞こえない。舌先で触れた眼球は思ったよりも柔らかい。そして涙の膜が張っていて塩辛い。僕は今、綺麗な瞳を味わっているんだ。下品なくらいにはあはあと呼吸が乱れている。舌が眼球を舐めまわす度に、彼女の胎内はぎゅうと僕を締めつける。ゆっくりと舐めたときに、一番締めつけがきつかった。堪らず射精してしまう。どくん、と精液を吐き出し、僕は身体の力を抜いた。 「っふ、ぅ、うぅ……っ」 がたがた震える名前ちゃんは信じられないくらい蒼褪めた肌をしていた。彼女の双眼からは涙が溢れる。 「せん、せ……、さとむら、せん、せぇ」 それでも、彼女は僕を見つめる。 硝子の瞳を「おいしそう」だと思った。 今度は左目を味わいたい。 また呼吸が乱れてくる。 「名前ちゃん、可愛い、大好き」 「あ……、あ、ぁ」 左の瞼をこじ開けて息を吹きかける。ぼろぼろと涙が流れ出す。今はもう、それすらが邪魔になって。片っ端から塩辛い液体を舐めとる。眼球。眼を。眼が。歯を立てたい。噛み砕きたい。恍惚。視神経も、何もかも。 嗚呼。 彼女はぴくりとも動かない。失神したのかなあ。死んではいないはず。 最後に舌先で眼球を叩いて、僕は二度目の射精をした。 - - - - - - |