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色香に溺れる


 何が正しいことで何が間違ったことなのか、私には分からない。愛の営みというくらいだから、性交は愛し合っている男女しかできないんだ。それくらいの認識しかない。初めて秋彦さんが私の身体を求めてきたとき「君を愛してるよ」と言っていた。だから安心してこの身を委ねた。そういえばあの頃は中禅寺さんと呼んでいたっけ。
「余計なことを考えているだろう」
 秋彦さんの手が腰から離れ、ずるずると這い上がってくる。脇腹、乳房、首、そして頬。優しい手つきなのに彼の手には温かさがない。頬を撫でる彼の手に自分の手を重ねる。
「あきひこさ、ん」
「ん?」
 何か言いたいのに、何も言えない。本当のことしか言えない愚かな唇が、言葉を探す。
「あきひこ、さん、あき、ひこ、さん」
 私を壊すように蹂躙していた秋彦さんの熱が、動きを止めた。愛しげに私を見つめる双眸。
「すき、あきひこさん、すき……、ッ!」
 莫迦なことを。
 分かっている知っている、秋彦さんには綺麗な奥様がいるんだ。綺麗なだけじゃない、優しくて邪な私にも微笑んでくれる。私が現れるまでは秋彦さんの愛を一身に浴びていた、恵まれた人。それなのに、私は。
「あき、ひこ、あきひこ……ぉ、すき、だいすき、」
 いつの間にか泣きじゃくっていた。秋彦と呼び捨てにしたのは初めてかもしれない。きっと、最初で最後。
 普段なら「僕も好きだよ」と口づけを貰える筈なのに、今日は違った。戸惑ったように秋彦さんは瞳を曇らし、ゆっくりと口を開く。
「──秋彦、か」
罪の重さに気づいたのは、その瞬間だった。



(自分が蜘蛛に捕らわれた蝶だなんて思っていない)
(毒気に当てられた、愚かな魚なんだろう)

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