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レメディー



「レメディー取って」
 お嬢さんの宝物は砂糖玉。
 小さい瓶を机に並べて、そのなかに収まる小指の爪くらいの砂糖玉を大切そうに見ている。この飴玉が彼女の苦しみを和らげてくれるそうだ。そんなに辛いなら医療室に行けばいいのにと思うが口にはしない。そういうことじゃない、と知っているから。
「具合悪ぃの?」
「ちょっと眩暈が」
 俺の指先からレメディーを舐めるように舌で迎え入れた。赤い唇に白い砂糖玉が飲み込まれる様を俺は黙って見ている。お決まりになったこの光景はとても好きだ。なんだか支配欲が満たされる。猫の餌付けみたいなものだ。自分に懐いている生き物はなんであれ可愛い。
 頭を撫でてやると彼女は目を細めた。喜んでいる。
「働きすぎじゃねぇかな」
「そんなことない。わたしくらい働いてるひとはたくさんいるよ」
 そう、例えばあいつとか。
 言葉に出さなくてもマスターのことを指しているのはよく分かった。俺は肩をすくめて明確な返事を保留にする。ふたりの啀み合いに巻き込まれるのはごめんだ。
「全員、働きすぎってことだよ」
 例えば俺も。
「だから今日は大人しく寝ようぜ」
 狭いベッドに先に彼女を寝かせてから俺も横になる。コイツから魔力は得られないので俺にとって睡眠はただの行為でしかない。目を閉じて一瞬気を失うだけの行為。そこに気持ち良さはない。
「なにもしないの?」
 そういう事実を踏まえた上で彼女は質問する。
 俺たちの性交は魔力供給を伴わないただの行為。睡眠と同じだ。違いは、快感があるかどうか。
「したいかい?」
 結局、睡眠もレメディーと同じなのだ。摂取すると良くなる気がするから、行う。安心したいから行うだけ(もちろん人間にとっては体力回復などの意味があることは知っている)。安心させたいから行う。
 性交だけが共有できる快楽だった。共有できる安心に彼女は依存していた。それをしたい、と潤む目が無言で告げていて、俺は彼女に覆いかぶさる。
 安心させたいから、宥めたいから。
 誰にするでもない言い訳を胸に、俺は小娘にキスをする。
「しょうがねぇなぁ」
 砂糖玉を舐めていた唇はとても甘く、刺激的だった。俺はレメディーよりははっきりと役に立っている、きっと。そうやってまた自分に言い訳して、甘い舌を絡めとる。ん、と漏れ聞こえる声に下腹部が熱くなって、
「誘ったのはそっちだからな」
 仕方ない、という体を保ちながら俺は欲望を剥き出しにする。
 俺は少し乱暴なレメディーだ。意味のない甘い行為で彼女を満たす。ただそれだけ。
 ただ、それができるのはやはり俺だけなので、誰よりも特別に違いない。

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