そのひと、いいや、その神のことを語るとき、彼の目の色は変わる。 いかに偉大であったか、いかに寛大であったか、いかに勇敢であったか、そして、いかにして敗北したか。 何度も同じ話をするけれど、わたしは何度も同じ話を聴く。彼の部屋という名の要塞に入り込める口実になるからだ。 クッキーをかじりながら、飽きるほど聴いたタイタン族の戦いについてふたりで話す。まるで観てきたかのように話すイデアは、少し子供っぽい。イデアの青く燃える炎は彼の神と同じだという。落ち窪んだ目に血色の悪い唇。それもお揃いなんだろうか。 彼の神は大いなる存在であったが、同時に疎まれる存在であったともいう。 「イデアみたいだね」 「そ、そんなおこがましい。いや、え、悪口? 僕、疎まれてる?」 イデアはクッキーに伸ばした手を止める。 「寮長なのに引きこもりでみんなに迷惑かけて」 「寮長と神を同等に語るのやめてもらえます? これだから無知蒙昧なパンピーは困る」 「疎まれてるのは本当だからね」 「それについてはぐうの音も出ないでござる」 しゅんとしてしまった。 他の寮長と比べても実際イデアは頼りなく、そもそもひとをまとめる器にないように見えた。新入りのわたしだからそう思うのかな。でもいまクッキーすら上手に食べられない彼を見ているとそう思っても仕方ない気持ちになる。ああ、もう、それくらい一口で食べてよ。かじりながら話すものだから食べ屑がどんどん溢れる。子供っぽいというか、子供だ。 「僕もあんな偉大な存在になれるといいんだけど」 口の端を拭いながらイデアはぽつりと呟いた。 それは、やだな。 思ったつもりが、つい口に出ていたらしい。イデアは「やっぱり僕はダメ人間なんだ」と頭を抱えた。 「高望みだと分かっていても、憧れるくらいは許されると思ったのに」 「そうじゃないよ」 「はい傷ついたイデアくん傷ついたー」 オタク、めんどくさ。 「話聞いてよ」 「拙者もうシャットダウンしますので、話は聞けませんな。では」 蹴っ飛ばすように部屋から追い出された。 確かに神様と比べるのはおかしいかもしれないけど、だって、あの神様だったらバッドエンドが待ってるじゃないか。 「イデアはずっとそばにいてくれなきゃやだよ」 ドアの向こうにそう言った。 「あと、クッキー全部食べないでね。残しておいてね」 聞こえたのか聞こえていないのか分からない。 わたしはドアを蹴っ飛ばして「また来るから」とがなった。 また来るから、いつでも来るから、神様になんかならないでね。 - - - - - - |