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「夏が来よる」

少し伸びた前髪を鬱陶しそうに撥ね除け、君は空を仰ぐ。とてもとても眩しそうに(実際、莫迦みたいに晴れていて、陽射しが目を灼いた)(それとは別に、君はなにかを見定めるように目を細める)。君は恨めしそうにぽつりと呟いた。私は笑う。けれど私の笑い声は君は届かないのだろう、決して。だから名前呼んでも応えはない。小声で呼ぶ(去年も同じようにして、去年は全く気づいてもらえなかった)。「あ」君が振り返る。私は嬉しくなって、すぐ、寂しくなった。君はぱたりと肩に落ちた気まぐれな雨の雫を気にしていただけで、私の声なんてやはり少しも届いていなかったのだ。忘れないなんて嘘、離れていてもきっと見つけるなんて大嘘。貼りつくような不快な風が沁みる。晴れ空の雨に、君は髪を気にする。髪の毛を気にする君はちっとも変わっていない。また嬉しくなって、すぐ、寂しくなった(それこそ、莫迦みたいに)。私を懐かしくして、それで君はなにもいわず背中を向けたまま。君は空っぽな顔で私のいない場所を見つめている。あれから幾年も経って、なにかもが変わり果てた筈だった(変わったのは私だけだった、なんて陳腐なこと考えたくもないのだけど)。君はまた同じことを呟く。私はまた笑った。「ねえ、吉行、先に死んでごめんね」と去年と同じことを詫びながら。