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甲状腺上のマリア

ああ、僕は。名前の唇はいつものように紅い。毒が塗られているのだといつも思う。ふうっと耳に息を吹きかけられるだけで僕はもう動けなくなってしまうから。じんと痺れて、頭が働かなくなる。僕がなにもいわなくなってから、名前は満足げに僕の上に乗る。恰も僕は蜘蛛の糸に捕われた無様な蟲だ。彼女はいつもゆっくりと補食を始める。首から始まって鎖骨、それから胸、腹、太腿、大事なところは最後まで触らない。僕はだらしないから触られもしないのに一度射精をする。鎖骨に齧りつくくすぐったいような感覚がどうしてもたまらない。柔らかい髪の毛にどきどきとしていてもたってもいられなくなる。腰が勝手に動いて少しでも彼女から刺激を受けようとするのが浅ましい。浅ましくて、恥ずかしい。下着のなかで絡み付く精液が気持ち悪く感じられ、腰が浮く。「じっとしていて」「あ、う」声帯まで搦め捕られたようだ。小さい身体が僕の上で這っている。蜘蛛が蛇になった。のたうつ白い肢体。きりきりと肩が痛んだ。噛み付かれたのかもしれない。痛い、と感じた途端に僕のそこはまた熱くなった。なにか肩に食い込んでいる。きっと歯だ。名前の白い小さい歯。歯が、痛い、もしかしたら血が滲んでいるのかもしれない、名前は噛み付いたまま首を動かしている、ああ、噛みちぎるつもりなのだろうか、そんな、「あ、あ、名前」期待に脳が揺れた。このまま、僕を痛めつけて、どうか僕を傷つけて。「やだ、血が出ちゃった」顔を上げた名前は口元を拭う。紅い唇。「ごめんね、痛かった?」思ってもいないことを。「ごめんね、まさか血が出るとは思わなかったの」謝らないで、名前「ごめんね、もうしない」違う、違うんだ「ねえ、光忠」「名前、名前」「なあに?」「もっと、して、ほしいんだ」ようやく絞り出した懇願の言葉に、蛇はちらりと舌を出して微笑んだ。「莫迦みたいよ、あなた」言葉だけじゃ足りない。僕をもっと酷く扱って。ああ、僕は。あなたなしでは生きてゆけない。僕はもうあなたの罵声と暴力なしでは生きてゆけないんだ。僕を生かすも殺すもあなた次第。早くあなたのなかで融けて消えてしまいたい。ねえ、僕はいっそ、あなたになりたいんだ。そんな畏れ多いこと、到底口にはできないけれど。名前、早く僕を食べて、そしてあなたの一部にして。「ああ、」僕の声があなたの声に変わってゆく。日当りのいいこの部屋で。