外面と顔面の良さのおかげで女に苦労したことがない。女なんていくら殴ってもその後優しく抱きしめれば許してくれる。チョロいもんだ。この顔面に産んでくれた親にとりあえず感謝している。キバナ様が女に不自由することは永遠にない。そう思っていた。 「世界中がアンタの思い通りになってもわたしはならない」 壁際に追い詰めてもその女はオレを好きにならなかった。胸ぐらを掴まれて爪先立ちになってもオレを睨む目は変わらなかった。 「わたしはネズのものだから」 「会ったこともねぇくせに」 「関係ない」 睨めつける顔はオレが見込んだ通り可愛い。 初対面の女を殴るのは初めてだった。夢見るバンギャを軽率に食おうとしたらひどく反発されて思わず一度殴ったのがきっかけだ。悪かったととりなしていつも通り抱き締めようとしたら突き飛ばされ、オレは大人気なく激昂して彼女を詰める。 「そうやって何人の女を殴ってきたの」 冷たい声が容赦なく責め立てる。 「オマエには関係ないだろ」 「そう。関係ないなら離して」 思い通りにならないことが腹立たしく、オレは彼女の身体を壁に叩きつけた。女は呆気なく倒れ込んでけほ、と咳き込む。頭を強かに打ち付けたようだった。 「いった……」 乱れた服から白い腹がちらりと見える。その鮮烈な生々しさが余計に彼女を欲しがる心に火をつけて。 「アンタがそんな人間だってネズは知ってんの」 「それこそ関係ない」 友人の名前を出されても罪悪感はなかった。向こうが友人と思っているかは分からないが。 なにかを探すように床を這う白い指先を踏んで詰る。「痛い」女は今日一大きい悲鳴を上げた。その声は切なくて可愛かった。煙草の火を消すように爪先を動かすと、それに比例して女は叫ぶ。このまま犯してやりたい。欲望が奥底で鎌首を擡げる。 なにも心まで欲しかったわけじゃない。身体だけ思い通りにできればよかった。それなのに女の頑固さが妙に引っかかって、 「オレのこと好きになれよ」 などと自分でも心外なことを言ってしまう。 「簡単だろ?」 彼女の指先から血が滲んだ。 「イヤ」 「……オマエなぁ」 躊躇いなく拒否する意志の強さにまた惹かれてしまい、オレはだんだん楽しくなってくる。 「なんでだよ、オレだぜ、キバナ様だぜ。世の中の女はオレに抱かれたくて仕方ねぇのに、なんでオマエは拒否するんだ? 素直になれよ。なぁ、手が届かないネズよりオレだろ」 随分顔色が悪くなった女を見下ろしてまくしたてるのは気分が良かった。早くオレを受け入れる言葉を口にしろ。そうすれば痛いのも怖いのもなくなる。抱きしめてやるから、早く。 「……わたし、アンタ嫌い。ネズとか関係なく、嫌い」 ぷつん、と理性の糸が切れる音がする。また拳を固く握ったとき、女はうっすら笑っていた気がした。 - - - - - - |