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彷徨



「ネズ〜久しぶり。こないだはライブありがとな!」
「こちらこそ。わざわざご足労くださって」
「いやいや、行きたかったし」
「そんなこと言うのは珍しいですね」
 訝しげな顔をする。
「どういう風の吹き回しですか」
 少し身構える。
「別に金借りようとかそんなんじゃないからな」
「貸しませんよ」
「違うって言ってんじゃねーか」
「それならいいですけど」
「頼み込んだら貸してくれる?」
「イヤ、です」
「だよなー」
「お前だって貸さねえでしょうよ」
 微かに笑う。
「金の貸し借りはロクなことになりませんからね。おれはしません」
「金以外は?」
「は?」
「だから、金以外は?」
 また訝しげな顔をする。
「例えば女とか」
 今度はオレが笑う。
「……は?」
 また身構える。
「あ、なんでもない」
 一歩退く。ネズの目がどんより曇る。
「……なんでもなくはないでしょう」
「バレたか」
「お前から言ったんです」
「うん。なんかお前が幸せそうだからつい口が滑った」
「意味が分かりません」
「女だって。アバズレ。オマエのセフレ。アレ借りた」
「クソつまらねえジョークはやめてください」
「本当本当」
「やめろ」
「なんで信じねーの?」
「言ってるのがお前だから」
 スマホを尻ポケットから取り出す。スワイプで先日の写真を表示させる。その際、ネズには見えないように。
「……なに見てやがる」
「それは秘密。オマエには見せないって約束しちゃったから」
「見せろ」
「ダメだっつってんだろ」
「いいから」
 腕が掴まれる。硬い床にスマホが落ちる。ネズがそれを拾う。液晶画面に映っているのはあの日泣いたアバズレと笑うオレの顔。
「オレは見せてねぇからな。お前が勝手に見たんだからな」
 俯いたネズの表情はオレからは読めない。
「スマホ返してくんねぇ?」
「……そうか」
「ん?」
「あいつも、泣くことあるんですね」
 ネズの表情は読めない。

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