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悲しみは地下鉄で



 雨のなかバイトが終わった。汗もかかず終わった。オレはコークハイ片手にいつも通り地下鉄に乗り込む。日付が変わりそうなこの時間はいつも通りひとが少ない。なかでもひとがいない車両を選んで座る。深く腰掛けて息を深く吐いた。昨日アイツと電話した幸せがひとつ残らず逃げていった。
 コークハイを一口。温いし不味い。冷えたビールを飲む価値もないオレにはちょうどよかった。
 いつも通りスマホを取り出してSNSチェックを始める。真っ先にアイツのアカウントを覗く自分が嫌いだった。ただ、名前と誕生日だけで構成されたシンプルなアカウント名が好きだった。多くの人と違って1日に一度更新するかしないかのアカウントだったが、オレは1日に何度も覗き込んだ(勿論、バイト中も)。足跡がつかないことが幸いだった。
〈おかえり〉
 珍しく複数枚の写真と共にアップロードされたその四文字が目に飛び込んできた。慌ててそのシンプルなポストから得られる情報を追う。1枚目に写っているのは手作りのオムライス、2枚目は土産物とそれを持った柔らかそうな指先、3枚目は見るのをやめたから分からない。
〈おかえり〉
 その言葉が添えられた写真には見覚えのある腕が写り込んでいた。アイツのじゃない。病的に細くて白いロックな男の腕だった。
 そっか、そうだったのか。
 コークハイをまた一口。予想を裏切らず不味かった。
 そういえばツアーが終わった頃だったか。土産物、たくさんあるんだろうな。
 たくさん書きたいことがあるだろうに〈おかえり〉の一言で我慢するアイツが憎らしいほど可愛い。たくさん書けば人気者と同棲していることがバレて大変になる。分かる人にしか分からないポストをするアイツは賢くて忌々しい。
 分かりたくなかったな、オレ。
 昨日の電話以来アイツがこびりついていた胸が痛む。なにを話したかはいま忘れた。あれは気まぐれの愛情だったに違いない。もしくは、別に意味ない友情。年甲斐もない青春は優しくて残酷だ。地下鉄、外は真っ暗。オレみたいに。
 あーあ、死にてえな。このコークハイ飲み終わったら死んでやろうかな。おかえりって言われたかったな。疲れた。風俗でも行こうか。死にてえな。
 キャラじゃないのに希死念慮に襲われた。キバナ様が失恋したことを知る者はまだいない。悲しみは地下鉄で。地上に戻る頃、全てを見失っているだろう。
 ああ、外はまだひどい雨か。

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