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マドロスは赤くして狡猾



 海に行きたいと我儘を言った君と、やや不満げに付き合うおれ。冬の海なんて自殺くらいしかすることがないだろう。君は嬉しそうにコートを羽織る。いつでも行けるのにどうしていまから行かなけりゃいけないのか。おれは文句を言いながらも止めない。我儘に振り回されるのは慣れているし、どうせ楽しいから。
「星の砂、拾いたい」
 冬の風がシャツの襟を立てた。
「星の砂なんて、あれは原生成物の抜け殻ですよ」
 おれは君に夢のないことを呟いてさっさと手を引く。歩幅が合わない君はよろけた。鞄に詰めて持ち歩けそうなくらい小さい手足。君が仔猫ならそうできたのに。
「なんでもいいよ」
 楽しそうな顔。孔雀の羽みたいに長い睫毛を見ておれの胸は少し高鳴る。何度見ても見慣れない綺麗な瞳はどんな星より輝いていた。振り切るように前を向いて海を目指す。
 午後は温む南風が吹いた。雲の隙間から覗く冬の太陽。おれたちは海にいた。
「星の砂、ありますか」
「わかんない」
 しばらく屈んでなにかを探す様子だったが、すぐに立ち上がって、
「夜の海が見たい」
 また我儘を言う君におれは呆れる。
 君は無邪気で、なにもかもが自分のためにあると思っている。自分のリズムで宇宙を廻して、おれを困惑させるんだ。宇宙のリズムで廻るおれはされるがまま。
「星が見たい」
 冷たい空気が皮膚を刺した。
「我儘ですね」
 おれの宇宙を乱す君はカシオペヤ座より罪深い。
 さあ用意ができたらさっさと君を鞄に詰めて夜の海にトリップするんだ。冬の風に遊ばれる君を見て、ああ君はマドロスのシャツがきっと似合う、なんて思いながら。

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