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あらかじめ失われた革命



 自由を叫ぶのは若さの特権で、おれたちはそれを行使していた。夜毎張り裂ける声で自由を欲し、首枷を疎んだ。若かった、本当に。大人は勝手だと叫んでデモ、シュプレヒコール、アジテーション、おれたちはライブハウスで革命を起こそうとしていた。その実、なににも縛られていないくせに。
 赤いスニーカーの彼女はベーシストでヘビースモーカーだった。知らない銘柄の煙草を空気みたいに吸う姿が格好良くておれは真似して喫煙するようになった。子どもだった。彼女はおれの若さをケラケラ笑った。3つしか年齢は違わないのにやたら大人ぶっていたっけ。大人を軽蔑するおれに、
「若いね」
 彼女はハスキーな声でそう言った。
「ネズくんは若いよ」
「……年齢はそうかもしれないですけど、」
 馬鹿にされたと思って唇を尖らせるおれを見て、またそうやって笑うのだった。大して歳も変わらないのに。「3年経てば君も分かる」まるで自分はなにもかも悟っているかのような口ぶりで。彼女と対等にいたかったおれは拗ねて暫く口をきかなかった。
 その頃のおれはとにかく表現がしたかった。何者でもないからせめて何者かになろうと必死で、小さい街から抜け出す自由を求めていた。そこに嵌ったのが大人に対するシュプレヒコールだった。自分は大人にならないと思っていたのかもしれない。自分だけはずっとそのままだと信じていたのかもしれない。そんなことあるはずがないのに。若かった。青かった。
 3年の呪いは程なくして効果を表した。
 まず1年経たないくらいで周りの人間がどんどん消えていった。進学だの就職だの、おれとは縁遠い理由だった。彼女は「よくあることだよ」と紫煙を燻らし切ない横顔で呟くのだった。
 2年ほどして、おれは法的に成人した。あれだけ嫌っていた大人に認定されてしまった。「おめでとう」彼女は少し高い酒を手渡しでくれた。ふたりでそのまま朝まで飲んだ。彼女のハスキーな声は永遠の酒焼けだったのかもしれない、といまは思う。
 3年経って、おれはあの頃の歌を叫ぶだけの理由をなくした。大人は勝手じゃない、意外と大変なものだった。「ほらね」彼女は笑った。あの頃軽蔑した、なにも持たない大人になったおれがぽつんと立っていた。音楽的には成功したが、人間としては空っぽだった。恋でもすればよかったと嘆いてももう遅い。3年前から彼女を恋していたと気づけばよかった。もうなにもかも遅かった。
「ネズくんは変わったよ。変わらないのはわたしだけ」
 なにも変わらない彼女はベースを鳴らしながら、やっぱり変わらず笑う。
「……わたしも変わりたかったな」
 ぽつりと小声で落とされるその言葉に、彼女はあの頃のネズを愛していたと知れる。いまさら気付いてももうなにもできない。おれは自分の情けなさに呆然とする。彼女のなかにいる3年前のおれはいまのおれを嘲笑っていた。

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