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楼閣



 わたしは喘いでいる。今日のネズはいつもよりずっと激しい。絶対にキバナといるところを見られたんだ。それくらい分かる、わたしはバカじゃない。セフレ止まりのくせに束縛が強いネズはわたしが他の男と話すのをとても嫌がる。ヘンなやつ。そんなところも好きだけど。腰を持ち上げる細い腕を見るのも好きだ。容赦なく奥を突く熱も、荒い息も、動く喉仏も全部好き。そう、わたしはネズが大好き。身体だけの関係になれただけで、この世でいちばん幸せだと思えるくらい、大好きなのだ。それでもネズは別にわたしに愛情はない。少しはあるかもしれないけど。男と話すのを嫌がるのは、単純にセックス前に汚れがつくのがイヤなだけだ。人間嫌いのネズだから。
 セックスの後はいつも抱き締められて眠りにつく。だけど今日はそれがなかった。背中をこちらに向けてネズは浅い眠りにつく。絶対にキバナのせいだ。
「ネズ」
 わたしは甘えた声で彼を呼んでみる。寝息は嘘なのか本当なのかわからない。わたしは我儘なので彼を揺さぶって起こす。「ねぇ、もう1回したい」これは嘘。
「疲れました」
 絶対に嘘だ。だけどこれ以上追及すると嫌われそうなのでわたしは諦めて身体を丸める。途端に枕元のスマホがけたたましく鳴いた。電話だ。慌てて着信音を消して発信相手を確かめる。
 ああ、やだな、キバナだ。
 ネズは振り返りどんよりした眼でわたしを見る。「電話、出ないんですか」「知らない番号だから出ない」閉じ込められた山椒魚みたいに暗い、この眼がなにより大好き。大好きすぎて、思考停止しちゃう。わたしの一方的な愛を軽くいなすネズは最高に理想の男。そっと手を繋いで眠りに落ちた。
 朝、ネズは先にいなくなっていた。いつものことだから気にしない。置き手紙も特になし。あとでスマホにメッセージ入れておけばいいや、とか思ってるんだろうな。それはまだ来てない。でもいつもちゃんと連絡くれるから、そういうところにまた惹かれていく。距離感が気持ちよかった。本当に、愛に必死なわたしは世界で最も可愛い。
 そう、結局、セフレでいることがいちばん愛なのだ。セックス中は別のことを考えなくていいし、剥き出しの相手を見られる。デートとかかったるい。それに、わたしみたいな人間を大好きなネズなんて、ネズじゃない。わたしを好きになる男は全員ダメ人間だ。
「おっ、アバズレじゃん、なにしてんの」
 帰り道、妙な偶然でキバナに会った。繁華街のど真ん中。やけにデカい男がいると思ったらこちらに走ってきて、サングラスを外してこの一言だ。続けて「つーか昨日なんで電話シカトしたんだよ」と来た。さすがにこう堂々と話しかけられると無視もできない。やだな。本当に嫌いだコイツ。
「ネズといたから」
「へぇ」
「じゃあね」
「待てって、飯でも食おう」
「お腹空いてない。眠い。帰る」
「じゃあウチ来いよ」
 バカなのかな、コイツ。
「友達とセックスした後の女を誘う? 普通」
 キバナといると遠慮なく舌打ちするし、イライラするので歯に衣着せるということを忘れてしまう。
「オレ様だから」
 まるで意味のわからない返事に、また舌打ち。コイツあれだ。いままで自分が落とせなかった女がいないから、どうしてもわたしを落とす気なんだ。それが友人のセフレでも(どの程度の友人かは知らないけど)。一回セックスしたら諦めてくれるのかな。わたしは少しだけ考える。
「……ネズに言わない?」
「言う必要ねーじゃん」
 どうだか。
「ウチ、すぐ近くだから休んでけよ。なにもしねーからさ」
 それで本当になにもしなかったらコイツはマジのバカだと思う。「じゃあ寝させてもらう」二度と話しかけられないためには一回のセックスくらいなんでもない。ネズにバレなければなにをしてもいいや。キバナも見た目は悪くないし。わたしは頭が悪い女の笑顔を作ってキバナの手を引いた。

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