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マダム・エドワルダ

 

 子どものように欲望のまま生きる彼女。好きなだけ眠り好きなだけ食べ好きなだけ愛撫に酔う。わたしね、結婚なんてするつもりなかったの、でもね、彼が愛してくれたから。ネズくんと出会うのがもう少し早ければね。か弱い腕に抱えきれないほど愛を受けて嬉しそうに。それなのに、
「ひとりでいると寂しくて」
 そんな言葉に捕まっておれはいまここにいる。本当は曲作りに専念するつもりだったのに、言葉に手を引かれて彼女の家までついてきてしまった。
 月明かりの逆光。夜の喧騒に紛れて彼女の嬌声が響く。おれの上で悶える姿は普段のあどけない表情と裏腹に艶かしく扇情的だった。仔犬みたいにきゃんきゃん吠えておれを更に駆り立てる。激しい動きにベッドサイドに開けたワインの瓶が転がって落ちた。カーペットに大きな染みができているだろう。彼女は夫になんて言い訳するつもりなのだろうか、それだけが気になった。
「わたし、ネズくんも好きなの」
 キスのあと、紅がうっすら乱れた唇で彼女は言った。
「あなたは……悲しい人ですね」
 射精した途端冷静になる頭が彼女に心ない言葉を投げつける。自分でも嫌になる。どうしても結ばれないからこれくらい言ってもいいだろう、おれの切なさは彼女への文句になって口から溢れる。
 愛はたくさんある方がいいから、だから、
「おれのこと、間に合わせの恋人としか思ってないんじゃないですか」
 どうせ他にも遊んでくれる男がいる癖に。寂しがりやの大きな子ども。乱れた髪で毎夜夢に落ちて。
 おれの文句に、なにが悪いの?という表情をする。
「でも、ネズくんもちゃんと好きなのに」
 するりとベッドを抜けて窓を開ける。月明かりの逆光。下着姿のままでも彼女は気にしないらしい。無垢な横顔と艶っぽい唇のギャップに目眩がした。聖女のような見た目で、俗人そのものの生き方をする女が少しだけ羨ましく感じた。
 鏡に向かってルージュを引き直して、また彼女は綺麗になる。美しく悲しい人、その可憐な指でおれの明日もまた奪うつもりだろう。

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