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束縛アネモネーション

 

 時折彼女が邪魔だなと思うことがある。正確には彼女の振る舞いが、彼女を愛するうえで邪魔になるということだ。宝石みたいにキラキラした瞳と小さい唇から溢れる言葉には常に嘘がつきまとう。おれは理解していた。彼女はとても弱くて、誰かに言い寄られると拒めないことを。なにかに絡まっていないと生きていられない蔦のような生き物だと。じゃあ、だから、おれにだけしがみついていればいいのに。そう思う。思うだけで本人に言うことはない。瞳も唇も、目の前にすると途端におれを盲目にしてしまうから。いまがよければそれでいい、なんて思ってしまうから。愛は本当に人を駄目にする。
 おれはいまも彼女の膝枕でうとうとしている。子供をあやすように髪を撫でる彼女はきっと他の男のことを考えている。目を見れば分かる。彼女の透き通った瞳に映るおれは盲信的に彼女を愛しているのに、だ。愛しているんだから愛してほしいなどというつもりはない。ないが、愛は欲しかった。おれだけ愛してほしかった。愛してほしい。愛しているから。過去もまとめて君を愛しているから。他の男に抱かれた君も愛しているから。いまも抱かれているのに、愛しているから。
「わたしいま幸せ」
 その言葉はどこまで正直なのか。
「ネズさん大好き」
 ああそれだけは嘘ではないと信じたいです。泣きそうになってしまうくらい君が好きなんです。
 冷たい指先と熱い視線を絡み合わせる。いまがたまらなく幸せで、いまこの瞬間に世界が滅びてしまえばいい。それなら彼女は他の男に抱かれることもないしおれも永遠に彼女を愛していられる。
 髪を撫でる左手が暖かくて優しい。これが仮初の優しさだとおれ以外の誰が分かるだろう。手に入れた愛に怯えて、手放されないよう必死に相手を愛する暖かさだと。
「ネズさん、」
 おれはセックスなんてしなくてもよかったのに、誘う指先はやっぱり愛に固執していて、愛し方をそれしか知らない不器用な彼女だった。わざとらしくそれを無視してやる。そうすれば彼女から愛されている状態が続いて心地よいから。唇に触れる指、一層力強く絡まる指。おれはセックスなんてしなくても君の傍にいるのに。愛されようと必死な彼女はとても愛しかった。
 どうすればいまの彼女とおれを永遠にできるのか少しだけ考えてみた。生温く狭い部屋のなかでお互いを求め合うふたりはいちばん美しい。
「一緒に死にましょうか」
 ふと、思い浮かんだ結論を言ってみた。「いまここで、ふたりで」キラキラした瞳が揺れる。おれを節穴にさせる小さい宝石。どう返事すれば嫌われないか戸惑っている唇は、やっぱり狂おしいほど愛しくて「なんでもないです」とおれは訂正するのだった。どんな返事をされても、いまを永遠にできるわけではないと知っているから。本当に死んでしまわない限り、ふたりは永遠ではないし。
「愛してますよ」
「わたしも、です」
 おれの前では愛の損得なんて考えなくてもいいんです。愛しているから。恥ずかしげもなく言えます。愛しているから。君の後ろに別の男がいても、それごと愛してみせます。愛しているから。でも本当はおれだけ見てほしいです。愛しているから。
 キスするいまの瞬間だけは誰にも奪わせない彩りだった。愛し合っているから。

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2020.01.03(お誕生日プレゼント