頼りない身体をしていた。厚底を履いた両脚はいまにも折れそうなくらい細くて、愛をたくさん抱く両腕はカッターのせいで傷だらけだった。路地裏で煙草を吸う姿はなにより儚く、おれはどうしていままでこんな存在を保護していなかったのか不思議になってしまった。 「ネズさんはわたしのこときっとどうでもいいよね」 血塗れの腕に包帯を巻いているとき、呻くようにそう言った。 「どうでもよかったら一緒に住んでないですよ」 わざとらしく愛の言葉を欲しがる彼女には、そう答えるのがいちばんだった。ただ、血に濡れた頬にキスをしても、彼女の辛さは減らなかった。世界を憎むふたりはそんなことでは満たされなかった。 ベッドでは饒舌だった。セックスの前にはまた愛をねだって、セックスの最中はいつも泣いていた。セックスの後には自己嫌悪に付き合わされることもあった。泣きながら腕を切る彼女はやっぱり儚くて、庇護欲があからさまにかき立てられた。彼女はどうでもよくない。おれたちは出会うべくして出会ったふたり。 「わたしはもうネズさんがいないと生きてけない」 「おれだって同じです」 共依存という言葉を知っている。たぶんおれたちはそれだ。彼女を守るために、おれも強くなる必要があった。日に日に増える煙草と合法か非合法かわからない薬の消費量。それと、少しのアルコール。 「最近のネズ変わったよね」 「ちょっと変だよね」 「妙な女に引っ掛かったんじゃない」 「やだなぁ、そうなるとバンドマンも終わりだよね」 あからさまに拒否反応を示す人間が周りに増えたのはそういうことなんだろう。ファンだった観衆たちは離れていき、宗教じみた好事家たちが残った。 「最近のネズってヤバイよね」 「危機迫ってる感じだよね」 「歌ってないと死んじゃう感じだよね」 「ヤバイ相手と付き合ってんじゃないかな」 「きっと本当は出会っちゃいけない相手だったんだよ」 残ったやつらにとって彼女の存在は不可侵のミューズにでも見えただろうか。例えるならナンシーとシド・ヴィシャス。 いつも通り愛の言葉をねだる女をシーツに沈め、おれは必死にその儚さを貪った。混じり、ひとつになるとき、漸くふたりは安心する。守りたいおれと守られたい彼女。足りないふたりが満たされる。 「守るって、なにから守るわけ?」 何万回も言われている文句。知らないだろう、おれたちが世界を憎んでいることを。交わりながら背中合わせで世界と戦っていることを。 シーツを掴む小さい手、痙攣するように動く喉元、白い腹、もはや全てがおれの手の内にある。守ってあげられる。おれは頭がおかしいからそのことがとても嬉しくて。 おれたちの出会いはきっとヤバいくらいマズいものだった。共倒れ、そんな言葉を知っている。例えるならボニーとクライド、そう、おれたちに明日はない。文句があるなら混ぜるな危険と最初から書いておけ。ないなら破滅を見届けろ。 - - - - - - |