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空より青く

 
 ぶすり。右の耳朶に3つ目の穴が開いた。「全然痛くない」とわたしはネズさんに言う。「痛い方がいいんですか?」ネズさんも笑う。ふたりともお薬でちょっとおかしくなってるからなにも加減ができない。笑いが止まらなくなって、安全ピンを持つ手が震える。今度はわたしがネズさんにピアスを開ける番なのに。ずっと笑っていると、彼にもそれが伝染った。「なにずっと笑ってやがんですか、やめてください」「ごめんなさい」珍しく肩を大きく震わせて笑っている。「次、おれですよ」ネズさんは綺麗な髪を耳にかけて耳朶を露出させた。耳朶も綺麗だなぁ、と少し感動する。身体のラインが全て滑らかで色っぽい。「これで6つ目ですー」ぶすり。「あ、ちょっと痛かったです」「あれ、ごめんなさい」また笑う。また止まらなくなる。手が震えていたせいかな、痛くしちゃった。ごめんなさいなのに何故か可笑しくて。「ごめんなさい、わたしの番お願いします」「もう開けるところないですよ」「軟骨、開けてください」「どこがいいですか?」ヘリックスを指差す。差す指がきっと震えてる。わたしたちはずっと笑っているから。ネズさんの笑顔が大好きだ。血塗れになったって、きっと笑ってる。わたしたちふたりなら。「はい」ぶすり。少し強めの衝撃が耳から全身に走る。少し痛かったかも。ネズさんは笑顔でわたしを見ている。「続けて開けていいですか?」「お願いします」ぶすり、ぶすり。軟骨に2回、安全ピンがわたしを貫いた。「血が少し出ましたけど、綺麗ですよ」同じこと思ってた。やっぱりわたしは笑う。つられてネズさんもまた笑う。「お酒取ってきます」細い身体を翻して彼はキッチンまで小走りで向かった。ぐらぐらした視界だとやけに遠く見える。すぐそこなのに。わたしは横たわる。90度傾いたわたしの世界に次に現れたネズさんは中途半端にあけたジントニックの瓶を持っていた。もう片方の手にはお薬入りの小さな箱。に、と悪い笑顔を作っている。「こんなつまみしかないですけど、どうですか」どうですか、って、さっきもう既にふたりで食べたのにね。青い錠剤を掌いっぱいに出してお酒で流し込む。小さめの錠剤だからどんどん胃に落ちていく。喉の奥が熱くなって、一層視界がくらくらしてきた。ネズさんもお菓子を食べるみたいにお薬をどんどん飲んでいく。耳がどくどくする。心臓が耳に移動したみたい。「次はおれの番です、よ」ちょっと滑舌が悪くなったネズさんは可愛い。たくさん買った安全ピンがじわじわ減っていくのが楽しい。「一気に行っていいですか?」「はい」ぶすり、ぶすり、ぶすり。あっという間に耳が安全ピンだらけになる。そういえば、安全ピンって、なにが安全なんだろう。「いて」思わずといった感じで発されたネズさんの反応も可愛くて、わたしは嬉しくなってしまう。「ニードルどこにやりましたっけ」わたしの質問に彼は黙ってテーブルの上を指差した。「トラガス開けてくれませんか?」「うーん、おれがやって変なことになっても怒らないでくださいよ」「ネズさんなら大丈夫です」「じゃあ、お前はおれの舌開けてください」「えっいいんですか?」「いいです」いいんだよ、いまが楽しいんだから。ふふ、と見つめあって笑う。酩酊でおかしくなってしまったわたしの顔を掴んで、横をむかせるネズさん。「動かないでくださいね」ちょっと震えてるのは許してほしい。ぶす。「あっ」いままでより強い衝撃がわたしを刺す。声が出たのは不本意だった。痛かったと思われたら嫌だな。痛かったけど。「可愛いですよ」ファーストピアスを差し込みながらネズさんは褒めてくれた。彼は本当のことしかいわないから大好き。もじもじしていたら小突かれた。ふたりともニヤニヤしてる。じゃ、とネズさんは爬虫類みたいに長い舌を出した。青い舌がいやに色っぽくて、わたしは見惚れてしまう。空の色よりずっと綺麗。身体に悪いことは心にいい。ネズさんは舌を出したまま笑った。わたしも笑う。お薬とお酒でどこまでも飛べる気がした。

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