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ロマンチシストの成れの果て



 生きるのが下手くそでなにもできないおれは、ただ君を想うことそれだけがやけに上手くできるのです。両手がある、ペンが持てる、詞が書ける、喉がある、声が出る、歌う、そうやって君を想う。知っていましたか。おれの曲はすべて言葉にできなかった君への想いなんです。愛だの恋だの書いていなくても、君への衝動なんです。
 好きです愛してます、なんて口にできるくらいならとっくのとうにしています。おれにできるのは君と会話したあとそれを思い出しながら君を乞う詞を書くこと。それから、君のうなじを思い出しながら自涜に耽ることくらいです。なんて汚れたこの人生だろう。時折嫌な気持ちになりますが、君はおれの曲が好きなので、それだけで生きることを許されたと思えます。
 おまけに詩人であることに優越感すら覚えるのだから救えない人間です。こうやって告白すれば君はおれを嫌うでしょう。だからしません。代わりに歯に衣着せて歌うのです。暗喩や直喩を使って歌い上げるのです。どこかの誰かさんのようにストレートな生き方ができれば、こんな仕事はしていないでしょうね。きっと君を養うためにまともに働いています。
 ただ感じるのは、案外適当に生きているということです。だってそうじゃないですか。本当に君を手に入れたければ、生き方を曲げてでもそうしたはず。それをしないのは、所詮おれは自分がいちばん大事なオナニー野郎だってことです。
 アルコールで君への気持ちをごまかして、いまも詞を書いています。指先は正直です。宙に浮かんだ君を想いながらすらすらと動く。放物線でいうと最大値のところをずっと描き続けているようなものです。なにせ、口に出せない分どんどんたまってゆくのですから。
 一度だけ好きだと匂わせたことがありましたっけ。そういうところが好きだ、と。君は笑いましたね。わたしもネズが好きだよと。その時の嬉しさだけは世界に秘密です。おれの拙い語彙力では表現しきれない、存在の尊さがあるので。ただ、知っています。その好きという気持ちは決して恋愛的なものではないことを。君はその大罪に自覚がない。許されればすぐにでも口付けたいこの衝動を弄んだこと。
 よくある話ですよ。愛だの恋だの、よくある歌です。おれという人間はありふれた人間です。ただ他のひとより狂気的に君を好んでいるだけで。そしてそんな自分をなにより好ましいと感じています。だから君には触れません。このままの、仲の良いお友達でいて下さい。さもないとおれは仕事も恋も失うことになるのです。なにもかもなくなった人生はさぞ虚しいでしょう。手が届かなくても、ショーウィンドウを覗くだけでも、君を見ていられるならいまの方がずっとまし。君を思い出して手を汚すくらいでちょうどいい。
 これでおれの告白は終わりです。君には言えませんが、おれはこんなことばかり考えています。どうですか、きっと君は幻滅しておれから去るでしょう。だから言いません。秘めたこの想いは、アルコールと音楽に乗せて君に届けます。着飾った言葉たちと共に。

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