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欲望と本能


 ごめんなさいごめんなさい、わたしはさっきから馬鹿の一つ覚えみたいに謝っている。それなのにキバナは大きな拳を何度も振りかざしわたしの身体中に痣を作る。
 狩りをする彼と狩られるわたし。逃げればいいのに、捕食者の檻に囚われてなにもできないわたし。ただ叫び声を上げて惑うだけ。それが余計に彼を興奮させることになるというのに。
「なに? オマエ、オレ様になんか悪いことしたの?」
 白い犬歯を剥き出しにして笑う彼が怖くて、なにもしていないのにまたごめんなさいと泣き叫ぶわたし。なにもしてないです、ごめんなさい、やめてください、お願いします。そうやって乞うけれど願いは聞き届けられず、こめかみに鋭い一打が叩き込まれた。視界が揺れる。
「こうしないと勃たねーんだよ」
 正直者のキバナは楽しそうにそう言った。今度は鳩尾に拳が突き刺さる。呼吸が止まって、なにも入っていない胃がひっくり返った。
 嗚咽に紛れて胃液が溢れる。「きたねーな」罵る言葉はやっぱりどこか楽しそうで。ちらりと見ると彼の表情はセックス中のそれと全く同じだった。わたしは悲しくなる。さっきまでの優しいキバナに戻ってほしかった。本当についさっきまで腕を組んで歩いていたのに、家に着いた途端、
「ナニ考えてんの、オマエ」
 髪を掴まれて引きずられる。「ちゃんとオレのこと考えてる?」痛い痛いと悲鳴を上げると、更に彼は喜んだ。ぶちぶちと髪が抜ける音がして、わたしの身体は硬い床に放り投げられた。肘を思いきり擦る。また痛いと声を上げた。キバナは本当に嬉しそうな顔でベルトを外し始める。ああまた始まるんだ、苦痛の時間が。
「いっ……いた、いっ」
 むりやり挿入された大きな熱。身体を刳る痛みに引き裂かれそうになる。どうしてこんなことをするんだろう、さっきまで優しかったのに、どうして。たぶんわたしは鼻血を出している。キバナの拳に血がついているから。
 また叩き込まれる殴打に、もう悲鳴も出ない。音にならなかった空気が喉から漏れるだけ。呼吸は乱れて心拍数もおかしくなる。ほとんど死体に近かった。
「いいねぇ、その顔」
 わたしが苦しめば苦しむほど、なかを犯す熱は勢いを増す。そしてわたしは余計に苦しくなるのだ。熱い、苦しい、熱い、痛い、苦しい。もがくほどにキバナは喜ぶ。
「オマエのその顔、超興奮する」
「ごめ、んなさ、」
「ん? だから別にオマエは悪くねーんだろ?」
 なにかしでかしている方がよかった。謝れば済むんだから。
「も、やめて、おねがい、キバナ……っ」
 噛みつくキスに酸素が奪われて、脳がくらくらする。唇が切れて血が出た。それを舐めとる彼は狼のよう。生温い舌が何度も唇を這った。
 そしてまた拳を振り上げる。抵抗できないわたしは殴られるがまま。頬を刺す痛みに、もうなにもできなかった。キバナの拳は血塗れになり、ギリギリでわたしがまだ生きていることを知らしめる。
「なぁ、悲鳴上げろよ、その方が興奮するから」
 ごめんなさい、ごめんなさい。必死で声を上げる。早く終わってほしい、その一心で。
「あー、イキそう」
 なかで暴れる痛みが激しくなる。本当なら愛の睦言を交わし合う行為なのに、わたしは泣き叫ぶだけ。
 わたしの喚く声に興奮したキバナは最後に喉に噛みつきながら射精した。犬歯が食い込んで皮膚が破れる。ただ、もうそんなものは些細な痛みだった。

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