出会えてよかったと彼女は笑った。おれの影響で始めたギターと煙草が彼女の相棒になった。 「ネズくんがいなかったら音楽なんて興味なかったね」 禁じられた遊戯を奏でながら、彼女はそう言った。単純にその言葉が嬉しくておれは照れ笑いをする。最初は本当にお遊びだったのに、いまでは曲作りに彼女は欠かせない存在になっていた。 「あたしが感動する曲だもん、みんな感動するよ」 それが口癖だった。皆を感動させるために詞を描いているわけではなかったが、そう言われると満更でもなかった。 バンドを組んだ。ボーカルのおれとギターの彼女。ふたりでひとつになった。狭いフロアで赤いスニーカーが暴れる様を見るのが好きだった。コロコロ変わる髪色が好きだった。 「くだらねえ、恋人同士でバンドごっこかよ」 「もっぺん言ってみろ殺すぞコラ」 たまに、客に喧嘩を売るスタイルも好きだった。どれもおれにはできないことだったから。殴り合いに発展しそうな喧嘩を止めるのはいつもおれだった。「くだらないからやめましょうよ」なんてヌルいことを言って。 「あたしたちの音楽がくだらないなんてこと、ありえない」 吐き捨てるように呟く横顔も好きで、とにかく彼女の全てを愛していた。 だから真夜中居酒屋で潰れていても迎えに行ったし、デモの出来が悪くて暴れても諫めてきた。彼女は激しさを増していった、次第に。 「あたしの音楽はくだらなくない」 それが口癖になった。爆発しそうな感性を必死に音にしている様子が危機迫っていて、おれは段々恐ろしくなった。才能のない作り手ならなにも感じない。彼女に才能があるからこそ怖くなったのだった。 おれたちの音楽は、彼女の音楽になっていった。 おれは本当に恐ろしかった。彼女と、彼女の音楽が。おれの世界まで燃やしそうになっていたから。 解散しようと言い出したのは、だから、おれだった。それはつまり、恋人同士でいることも恐怖だったのだ。 最後のデモを聴きながら、彼女は出会えてよかったと笑った。 そしておれの影響で始めたギターと煙草が彼女の相棒になった。「ネズくんがいなかったら音楽なんて興味なかったね」その言葉に偽りはないのだろうが、それ故におれをまた苦しめるとも知らず。 そうして、ひとつはふたりになった。 彼女はいまでも赤いスニーカーで暴れているだろうか。あの狭いフロアで。 - - - - - - |