「あたしたちの人生を映画化するなら、コメディアンが主役ね」 彼女はおれたち以外にいなくなった映画館で呟いた。 「映画、面白くなかったですね」 おれは返事にならない返事をする。 それは毒にも薬にもならないラブロマンスだった。 男と女が出会って、喧嘩して、恋に落ちてハッピーエンド。セオリー通り。 それは、いまのおれたちから最も遠い幸せだった。 「つまらないものに誘ってすみません」 「いいよ、ふたりでいられる時間なんてなかなかないし」 いまこうしている時間だって、誰かに見られたら。 「あたしたちどうしてきちんと幸せになれないんだろう」 「それは……おれのせいです」 実際、おれがおれでなければどこへでも行けるはずだった。ネズがネズでなければ。ネズは縛られた存在だ。そう、ネズはいつの間にか恋人がいてはいけない偶像になっていた。 「だから、喜劇になんかならないですよ」 「違うよ。だから、笑い飛ばさないとやってられないの」 「映画化しにくいですよ、おれたちは」 「大丈夫。いまはCGでなんとでもなるし、映画だったら作り物だから編集次第で幸せになれるよ」 彼女はそう言って席を立ち、おれなんていないように振るまう。他人のように。完璧な演技だった。 - - - - - - |