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弾けないギターを弾くんだぜ



 なあ、おい、オレ、弾けないギターを弾くんだぜ。お前の気を引きたいから、弾くんだぜ。ちょっとはこっちを向いたらどうだ。
 弾けないギターを練習するんだぜ。カッコ悪いところは見せたくないから、恰も「最初から弾ける」みたいなツラして。
 それもこれも、お前がバンドばっかり追いかけてるせいだ。
 オシャレ、最低限しか興味ない。SNS、見たい人しかチェックしない。こんなにも気が合わないのにオレはお前に夢中で、弾けないギターを弾く。Smoke On The Waterなんか何度も練習して。絶対に聴かせられないけれど。このオレ様が四苦八苦している姿なんて誰にも見せられない。だから彼女に見せるときは涼しい顔して、水面下でバタ足をしている。
 たまに聴かせると「ネズの曲やって」とか言われるから披露するのが嫌だ。それでも構ってもらえるのが嬉しくて言われるがまま練習もそこそこに重たいラブソングを耳コピしたりする。「へたくそ」笑う彼女は可愛くて、弾けないギターが報われる。
「急にギターに目覚めたね」
 そりゃ、お前から見たらそうなんだろうな。
 なあ、おい、オレ、お前に構って欲しくて弾けないギターを弾くんだぜ。
「こないだのネズのライブがよかった?」
「いや、なんつーか、昔やってたの思い出して」
 大嘘。そのせいで課題曲と称してネズの楽曲のスコアを渡された。「これやってくれたら最高。本人には負けるけど」本人と比べるのは、いくらなんでもないだろう。でも話せるきっかけができたのが嬉しくて、弾きたくないギターを弾くんだぜ。まるで高校生みたいに。
「へたくそ」
 一生懸命練習した課題曲を披露すると、彼女はケラケラ笑った。
「オレに合わねーんだよ」
 言い訳しながら指を動かす。指が動いている間はお前はオレのものだから、何度も同じリフを弾く。カッコ悪いギターソロ、だけど彼女はネズの曲というだけで笑顔になってくれるのだ。
 なあ、おい、オレ、お前が好きだよ。恋を夢みて愛に生きるお前が好きだよ。追っかけしてる姿も大好きだよ。オレを振り向いてくれなくても、大好きだよ。
 弾けないギターを弾くんだぜ。お前の目の前でカッコつけるために、弾くんだぜ。少しはオレのことカッコいいと思ってくれよな。

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