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焼き鳥盛り合わせ4000円


「決めたか?」
「うん。お願いしまーす。えーと、もも、ねぎま、砂肝、ぼんじり、なんこつ、せせり……ぼんじり? ももってもう言った?」
「いまのなしで、焼き鳥の盛り合わせふたつ。オマエ、酒は?」
「杏露酒のお湯割り!」
「オレはビールで」
「やー、今日のライブもよかったねえ、ネズは世界一かっこいいね」
「出待ちしなくてよかったのか?」
「うん、今日はね入り待ちしてプレゼント渡したからいいの。最近出待ちのコが多くて嫌なんだよね」
「へえ」
「こないだね、アンコールにあの曲やってくれたら嬉しいなって言ってみたんだけど、今日やってくれたから、もうえへへ、溶けちゃいそう」
「あーあー、もう溶けてる、顔とか」
「杏露酒のお湯割りとビールでーす」
「どもども。キバナくんビール好きだよね」
「焼き鳥にはビールだろ、これ以上のコンビはねえな」
「わたしとネズみたいだね! ふたり並んでるとカップルみたいって言われたことあるよ」
「盛り合わせふたつー」
「どーも」
「言ってろよ。オマエみたいに思ってるファンはたくさんいるぜ」
「焼き鳥美味しいねえ」
「……おい、さっきからネギだけ寄越すのやめろ、ねぎまはネギと食うから美味いんだろうが」
「ネギ苦手なの。熱いし。好きでしょ?」
「いやまあ、食うけどさ……」
「なんかネギ多いねこのねぎま。全部お食べ」
「ネズだってネギくらい食うぜ」
「ネズがネギ食べるわけないじゃん!」
 ぽいぽいと皿に投げられるネギを眺めながら、まるでオレを見ているようだと思った。一般的には鶏肉に合うからと挟まれたネギ――オレからしたらお似合いだと思うのに、この場にいないオレじゃない男に夢中の女。鶏肉が彼女でネギがオレか? 逆でもいいか。雁首揃えて皿に並ぶ気の毒なネギを全部食べつつ「いやネズもネギは食うだろ」と小さく反論した。
「ネズとネギって、なんか似てるね!」
 たった一杯で酔ったらしい彼女は満面の笑みで砂肝を齧る。
「ねえ、またここ来ようねえ」
「次は?」
「えとね、来月の十日かな? さっきのライブハウスでまたやるから来れるよ」
「へーい」
「おねいさん、杏露酒のお湯割、追加で!」
「かしこまりましたぁ」
「でさ、入り待ちのときにネズにね、たまにはレア曲もやってほしいなあって言ったの。ほら、あの、宇宙がどうとかいうやつ……十日にやってくれたら、もう絶対わたしのこと好きだよね! 絶対! もう、好き好き大好きって感じ」
 さっきより元気な笑顔と酔って変な言葉遣い。やっぱりコイツが好きなんだなあとしみじみしてしまい、口許が綻ぶ。この笑顔のために毎回ライブに付き合ってんだ、ネギくらいいくらでも食ってやるよ。二杯目のビールを頼み、ぼんじりを食う。悲しくても切なくても、美味いものは美味い。美味いものと好きな女に罪はないのだ。

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