「決めたか?」 「うん。お願いしまーす。えーと、もも、ねぎま、砂肝、ぼんじり、なんこつ、せせり……ぼんじり? ももってもう言った?」 「いまのなしで、焼き鳥の盛り合わせふたつ。オマエ、酒は?」 「杏露酒のお湯割り!」 「オレはビールで」 「やー、今日のライブもよかったねえ、ネズは世界一かっこいいね」 「出待ちしなくてよかったのか?」 「うん、今日はね入り待ちしてプレゼント渡したからいいの。最近出待ちのコが多くて嫌なんだよね」 「へえ」 「こないだね、アンコールにあの曲やってくれたら嬉しいなって言ってみたんだけど、今日やってくれたから、もうえへへ、溶けちゃいそう」 「あーあー、もう溶けてる、顔とか」 「杏露酒のお湯割りとビールでーす」 「どもども。キバナくんビール好きだよね」 「焼き鳥にはビールだろ、これ以上のコンビはねえな」 「わたしとネズみたいだね! ふたり並んでるとカップルみたいって言われたことあるよ」 「盛り合わせふたつー」 「どーも」 「言ってろよ。オマエみたいに思ってるファンはたくさんいるぜ」 「焼き鳥美味しいねえ」 「……おい、さっきからネギだけ寄越すのやめろ、ねぎまはネギと食うから美味いんだろうが」 「ネギ苦手なの。熱いし。好きでしょ?」 「いやまあ、食うけどさ……」 「なんかネギ多いねこのねぎま。全部お食べ」 「ネズだってネギくらい食うぜ」 「ネズがネギ食べるわけないじゃん!」 ぽいぽいと皿に投げられるネギを眺めながら、まるでオレを見ているようだと思った。一般的には鶏肉に合うからと挟まれたネギ――オレからしたらお似合いだと思うのに、この場にいないオレじゃない男に夢中の女。鶏肉が彼女でネギがオレか? 逆でもいいか。雁首揃えて皿に並ぶ気の毒なネギを全部食べつつ「いやネズもネギは食うだろ」と小さく反論した。 「ネズとネギって、なんか似てるね!」 たった一杯で酔ったらしい彼女は満面の笑みで砂肝を齧る。 「ねえ、またここ来ようねえ」 「次は?」 「えとね、来月の十日かな? さっきのライブハウスでまたやるから来れるよ」 「へーい」 「おねいさん、杏露酒のお湯割、追加で!」 「かしこまりましたぁ」 「でさ、入り待ちのときにネズにね、たまにはレア曲もやってほしいなあって言ったの。ほら、あの、宇宙がどうとかいうやつ……十日にやってくれたら、もう絶対わたしのこと好きだよね! 絶対! もう、好き好き大好きって感じ」 さっきより元気な笑顔と酔って変な言葉遣い。やっぱりコイツが好きなんだなあとしみじみしてしまい、口許が綻ぶ。この笑顔のために毎回ライブに付き合ってんだ、ネギくらいいくらでも食ってやるよ。二杯目のビールを頼み、ぼんじりを食う。悲しくても切なくても、美味いものは美味い。美味いものと好きな女に罪はないのだ。 - - - - - - - |