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スローターハウスにようこそ


「ダンデさんはいいひとだよね」と皆が口を揃えて言う。「優しいよね」「紳士って感じ」「結婚するならあんなひとかな」特にその会話に混ざるほど彼女たちと仲良くもないわたしは着替えながら無意味にそれらを聴いて、ダンデさんはつまらない男なのだなと考えた。つまらない制服から私服に戻り、挨拶もすることなくロッカールームを出る。お腹が空いたなあと時計を見たら廊下の向こうからダンデさんがこちらに向かってくるところだった。
「ちょうどよかった」
「はい?」
「晩飯でもどうだ? 勿論奢るから」
 そういえばネズさんやキバナさんと寝たときもディナーに誘われてからだったなあ、と思い出す。食べて、二軒目にバーに行って、そのままホテルだ。ダンデさんも同じパターンなのか。つまらない男だ。
 至ってふつうのグリルに連れて行ってもらい、ふつうの話をいかにも楽しそうにした。わたしは男に媚びるのがとてもうまいから、ダンデさんは終始にこにこしていた。爽やかな顔をして、どんなつまらないセックスをするんだろう。実のところわたしの興味はそればかりだった。
 二軒目の記憶はあまりない。ウォッカをショットで煽るのを何度か繰り返したら絵に描いたように酔い潰れた。ダンデさんの腕にしがみついて「歩けない〜」と甘えてやる。ほら、これでホテルに連れ込みやすくなったでしょ。
 ダンデさんは変な顔をしてタクシーを捕まえ、運転手になにか伝えた。まさかこのまま帰すつもりだろうか。ああ、本当に「優しいひと」なんだ。つまんないな。意識がどろりと崩れて、自然と瞼が落ちてきた。
「おい、起きろ」
「んぇ」
 ぺち、と頬が叩かれて目が覚める。タクシーから降りて、見知らぬマンションの目の前にいた。
「ここどこれすか」
 呂律が回っていない。それがおかしかったのか彼はくすくす笑った。
「オレの家だよ。ふだんは誰も入れないが、きみは特別だ」
「はあ……」
 誘われるままエレベーターに乗り、後ろからダンデさんに抱き締められて「なんだかめんどくさくなりそうだな」と思った。
 部屋に転がり込むやいなや、靴も脱いでいないのにキスをされる。抱きすくめられてそのままベッドに運ばれた。シーツに沈められながら噛み付くようなキスをする。舌を吸われ、甘噛みされ、息ができなくなるくらい激しいキス。甘ったるくてうっとりしていたら両手首を掴まれて頭の上で拘束された。あ、と声を出す前にかちゃりと金属音が聴こえた。
「なに、して」
 両腕を動かそうとしてもなにか冷たい金属のせいでなにもできない。ダンデさんが鍵を見せてきて、手錠をかけられたと気づく。ぞわ、とした。わたしが想像していたセックスと違う。彼はどろどろなキスをして、壊れ物みたいに女に触って、嫌になるくらい優しく最後まですると思っていたのに。
「やめ、」
「いまさらか? 誘ったくせに」
 耳元で囁かれる低い声はいままで感じたことのない恐ろしさを孕んでいた。
 ダンデさんがベルトを外し、わたしの胸の上に馬乗りになる。「ほら」唇に性器が当たってぞわぞわした。舐めろということらしい。恐る恐る口を開けて舌を出したら、根元まで一気に突っ込まれた。
「ん……っ!? ぐ、う……っ」
 そのままがつがつと腰を動かされ、喉の奥が苦しくなる。体液と唾液に溺れそうになって咳き込むも、彼のものが抜かれないからなにもできない。ダンデさんは真顔でずっとわたしを眺めていた。
「出すぞ」
 どく、と大きく脈打ち、喉奥に精液が流れ込んだ。吐き出したらもっとひどいことをされそうで必死に嚥下する。ダンデさんは口に指を入れて、精液が残っていないことを確認してから退いてくれた。
「ね、ねえダンデさん」
「喋るな」
 有無を言わせない口調にびくんと震える。
 タイツを破かれて、外気に触れた皮膚に鳥肌が立つ。暴れようとしてもダンデさんの力には敵わない。足首を掴んでいとも簡単に大きく開かされる。今度は無骨な指が下着の上からわたしのそこをなぞった。ちっとも濡れていないのは自分でも分かる。ネズさんもキバナさんもそこを舐めるのが好きだったな、なんてぼんやりしていたら、熱くて硬いものが擦り付けられた。
「や、いや」
 そんなもの慣らしてもないのに入らない。やめてお願いと懇願しても彼は鼻で笑うだけだった。
 身体がふたつに裂けそうな痛みが襲ってくる。かちかちと歯の根が合わなくなって、涙がとめどなく溢れてきた。さっき飲んだ精液が逆流しそうになって懸命に耐える。
「はあ、」
 ダンデさんの漏らす吐息がやけに熱い。身体にまとわりついて気持ち悪く感じた。顔を背けたら、大きな手のひらがわたしの頬に触れる。それから首筋を撫で、両手で首を包み込んだ。
「や、」
 拒否の言葉は最後まで言えなかった。ぎゅうっと力が込められて呼吸が制限される。目の前でばちばちと火花が散っているみたいだ。苦しい。口の端から唾液が垂れても、どうしようもなかった。
 しばらく自分勝手に腰を打ちつけ、彼はぶるりと身体を震わせた。膣内でどくどくと生温い液体が広がる。それと同時にようやく手が離され、わたしは咳き込んで身を捩った。
「ひどい」
 文句を言えるようになったのはダンデさんが二本目の煙草に火を点けた頃だった。なんだか惨めで、悲しくなって涙が涸れるくらい泣きじゃくる。
「誰かに言えるものなら言ってみろ」
 ひどく冷たい目で彼がわたしを見た。
「どうせ言える相手もいないだろう」
 そう言いながらまたベッドに上がってくる。「誘ったのはきみからだ」また最初と同じことを囁き、犬につけるみたいな首輪をわたしにつけた。じゃら、と細い鎖が音を立てる。なにをされるのか分からなくておびえるわたしを、彼はいかにも楽しそうに見ていた。

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