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夢魔



 やっと自分専用のユニフォームが届いた! ぎゅっと抱きしめて息を吸い込んだら新しい服のにおい。おれの名前とシンボルがプリントされたところに指を沿わせ、いよいよ自分が一人前への道を歩み出している事実にわくわくした。
 嬉しくなっていつも仲良くしてくれているお姉さんにユニフォームが届いたとメッセージを入れる。すぐに〈よかったね、見せて〉と返事が来た。ハンガーにかけて、なぜか誇らしそうなジグザグマも一緒に写す。お姉さんに送ったら〈ネズくんが着てるとこが見たいんだよ〉と返ってきた。自分で自分を撮影しようとしてもどんな顔をすればいいか分からないし、だいいち上手く全身が映らない。おれのそんな言いまえに〈じゃあそれ着てうちに来て〉とお姉さんが答える。心臓がトランポリンみたいに跳ね上がった。三十分後に行きますとメッセージを打ち、慌ててシャワーを浴びにバスルームに走った。
 お姉さんはうちの三軒向こうでひとり暮らしをしている、なんだかよく分からないひとだ。いつも家にいるし、たまにめんどくさそうにニャイキングの散歩とかをしている。「こいつわたしの言うこと聞かないんだよ」と愚痴っていたからお姉さんのポケモンではないらしい。
 丹念に髪を乾かし、ユニフォームに袖を通す。袖が少し大きくておれの腕には余った。成長で手足が長くなるだろうと実寸より大きく作られているに違いない。いざ着てみるとまだ自分が子供っぽい感じがして照れくさかった。
 ユニフォームに合わせて買ったシューズを履いてお姉さんの家に向かう。どきどきしていた。お姉さんと会うといつも腹の奥が変な感じになってしまう。話すと楽しい、可愛がってくれる、でもそれだけじゃない。お姉さんの切れ長の眼に見られると、なんだか妙な気分になってしまうのだ。柔らかそうな唇を思って手を汚したこともある。おれがそんな目で見ていると知られたらきっと嫌われてしまうからまだ子供っぽいと思われるくらいでちょうどいいのかもしれない。
 こんにちは、と挨拶しながら玄関のドアを開けた。お姉さんはいつも鍵をかけないから遊びに行くときは毎回こうだ。「忘れちゃうんだよね、鍵かけるの」えへへ、と言い訳するお姉さんが可愛いのでおれも大して文句は言わないようになった。
 いつもなら「いらっしゃい〜」と間延びした声で返事があって、お姉さんが迎えてくれるのに今日は出てこない。ちょっとだけ迷ったがいまさら気を遣うこともないだろうと上り込む。リビングにいない、バスルームに気配もない、寝室をなんとなく覗いたらお姉さんが大きなベッドでしどけなく横たわっていた。薄い生地のミルク色のキャミソールだけを身につけ、腕を投げ出し、喉を晒して眠っている。赤いベルベットのカーテンに白い身体が艶かしく映えていて、いつか美術館で観た古い悪魔の絵を思い出した。
「おねえさん、」
 おれの呼びかけはなんの意味もなかった。近づいてもう一度呼びかける。指先がぴくりと動いただけで起きてはもらえなかった。徐に傍に寄って、しゃがむ。柔らかそうな唇が薄く開いていて白い歯とピンク色の舌が見えた。見てはいけないものを見てしまった気がして、途端に下腹部がずくんと疼く。動揺して視線を別のところに向けようとしてもお姉さんの喉仏、デコルテ、ウエスト、惜しげもなく晒された綺麗な脚――彼女から逃げられない。
 完全に勃起してしまったのをどうにかしたくて、でも立ち上がると隠しようがないのでしゃがんだまま落ち着こうとする。なにか別のことを考えないと。目を閉じたら今度はお姉さんの香水の匂いで身体がいっぱいになってしまい、おれはパニックに陥っていた。甘ったるいキャンディみたいな匂い。いつもこんな匂いをさせていただろうか。
 そうだ、帰ろう、来なかったことにしよう。意を決してまた目を開けたら、今度はお姉さんがにたりと笑ってこちらを見ていた。反射的にすみませんと言おうとした瞬間、髪を掴まれ、お姉さんが唇を重ねてきた。「……っ」ぬるりと舌が入ってくる。さっき盗み見したピンク色の舌だ。おれは反射的に顔を離そうとしたが、いつの間にか両手で頭を固定されていて動けなくなっていた。
「ふ、ぁ」
 そのまま口の中がめちゃくちゃに犯される。お姉さんのぬるい舌が頬の内側や歯列をくすぐり、唾液がだらだらと溢れて止まらない。おれの声とは思えないような変な声が出て羞恥に頬が熱くなった。
 気持ちがいいとかそんな風に感じる前に、とにかく大混乱だった。お姉さんとキスしている。あの唇がおれに触れている。柔らかい。どうにかなりそうだ。お姉さんは息継ぎのために顔を離し、またにたりと笑う。べたべたになった口元を雑に拭ってから「どうだった?」と聞いてきた。
「な……あ……」
 なにも答えられなくてただ口を動かすだけ。
「ユニフォーム似合ってるよ、ネズくん」
 お姉さんはこの場に似つかわしくないことを言って、おれの腕を引っ張った。抵抗できなくてベッドに押し倒される。さっきまで彼女が寝転んでいたシーツだ。気が違いそうなほど甘い匂いがする。
「でも早速汚しちゃったね」
 しなやかな指が性器の辺りをくるくるとなぞる。
「悪いおねーさんでごめんねぇ」
 ちっとも謝る気のない言葉に、また頭がぐちゃぐちゃになった。お姉さんがなにを考えているのかまったく分からない。おれはこれからなにを、どうされるのだろう。
 おれに馬乗りになったまま、お姉さんは腰の細いリボンを解いた。キャミソールと同じく白い下着がはらりと落ちる。おれの心臓は激しく脈打ち、呼吸は乱れていた。「だぁいじょうぶ、怖いことはしないよぉ」お姉さんが背中を曲げ、おれの首筋を舐めた。頭の中が真っ白になる。
 気がついたらおれの指先は彼女に絡め取られていて、想像すらしたことのない場所に導かれていた。お姉さんは片手の人差し指と中指でそこを器用に開き「ほら、ここ触るんだよ」と部屋の匂いと同じくらい甘ったるい声で囁いた。なにがなんだか分からなくなって、中指を前後に動かしてみる。お姉さんが肩を震わせた。「ネズくん、もっと」「は、はい……」間抜けに返事をして指をまた動かす。だんだん体液が指に絡むようになり、お姉さんの喘ぎ声も漏れるようになってきた。
「指、入れて」
 お姉さんがまた囁く。恐る恐るそのまま中指を教えられたところに差し入れた。「ん、んっ」お姉さんがおれの手首を掴み、腰を緩く動かす。知らない肉に指が包まれている感触にぞわぞわする。ここにおれのものを突っ込んだら――なんて考えてまた性器が痛くなるほど興奮した。それを感じ取ったのかお姉さんは動きを止め、おれの指を離し、身体を後ろにずらした。ゆっくりとおれのジャージを脱がして勃起したそれを可笑しそうにつつく。先走りが彼女の指先を汚したのが恥ずかしくて思わず顔を両手で覆った。「みないで……ください……」お姉さんの視線を感じるとますます興奮してしまう。
「だめだよ、ちゃんと見て」
 また手首を掴まれて強制的に視線を奪われる。
「さっき指入れたところにネズくんのおちんちん挿れたら気持ちいいよね、きっと」
「あ、ぅ」
「ねえ、どう? したい?」
 ずるい、きたない、おれのくちからいわせるきだ。おとななのに、おねえさんなのに、こどものおれをもてあそんで。
「したい……です」
 それなのにおれときたら正直に欲望を口にした。
「お姉さんと、したい……」
 彼女はまたにたりと笑った。
 大きく脚を開き、膣口に亀頭をぴとりと当てて「ん……」と鼻にかかった声を出す。ゆっくり、わざとらしく時間をかけておれのものが呑み込まれていって、すべてが入りきったときにはもう射精しそうになっていた。
「も、だめ、です……っ、おれ、おれ……っ」
 泣きそうになりながら首を横に振る。「まだ我慢だよお、ネズくん」お姉さんが腰を大きく動かすたびにシナプスがぱちぱちと反応する。気を失いそうだ。たぶんおれの顔はみっともなく歪んでいる。
 はっ、はっ、とふたりの呼吸が合う。お姉さんもおれも獣みたいな息遣いになっていた。どうしてこんなことをしているんだろう。ただ遊びに来ただけなのに。もしかしたらおれは心のどこかでこんなことを期待していたのだろうか。それともこれは夢なのか――もうなにもかもめちゃくちゃだった。
「おねえさ、んっ、ほんとに、おれ……っ!」
「イきそう? いいよ、なかに出しても」
「だめ、だめです、だめですっ」
 お姉さんは意地悪な表情をして腰の動きを速めた。「あう、あ、あ……っ」もうだめだ、お姉さんのなかに出してしまう、おれが、お姉さんを、だめなのに。
 ぱちん、と頭の奥でなにかが弾けた。ほぼ同時にお姉さんはおれの性器を抜き、勢いよく飛び出した精液はユニフォームを汚した。
「あは」
 息を荒げながらお姉さんは「ごめんね」とまた気持ちのこもっていない詫びをした。おれは羞恥と快感と罪悪感とその他いろいろなものがモザイク状になってなにも喋れない。またあの古い絵を思い出していた。お姉さんは悪魔の方だったのだ。あの悪魔はどんな表情をしていただろうかと呆けていたら、お姉さんはやっぱりにたりと笑っていた。

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