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ずっと友達



 自分でいうのもなんだけど、わたしはかなりいい友達だと思う。マリッジブルーで不安定になる友人を毎夜慰めて励ましてあげたし、結婚式は誰よりも泣いて喜んで、皆を感動させるスピーチをきっちり三分行った。事前に「あなたにあげるね」といわれていたブーケトスも綺麗に受け取って新婦とふたりで記念撮影をした。ふたりのメイクは涙で崩れていたけどとてもいい笑顔だった。新郎のネズとも昔からの友達だったから、三人でも写真を撮った。図々しくも真ん中でピースサインをするわたしをふたりがやれやれという顔で見ているおかしな写真だった。
 結婚生活が始まってからも交流は続いた。友人は料理上手だから月に一度はわたしを呼んで食事会を開いてくれた。話すのは昔のこと、最近あったこと、ふたりの惚気話。にこにこと聞いては高いワインを頂いた。
「やっほー、来たよー」
 先週旅行に行ってきたときのお土産を携えて今日も新居にお邪魔する。子どもっぽく何度もチャイムを押す。ピンポンピンポンと内に篭った音が響いた。そろそろ「うるさいなあ」って困った笑顔の友人が顔を出すはずだ。
「……やかましいんですが」
 ところが出てきたのはぼさぼさ頭のネズだった。「あれ?」「あいつは今日いませんけど、約束してたんですか?」そうだよ、おかしいな。メッセージを見返して時間を確認する。土曜日の午後三時にお邪魔するね、っていうわたしに、待ってるねって返事。「今日は金曜日です」「あ」しまった! 久しぶりにやらかしてしまった。大人なのに。恥ずかしくなってえへへと笑う。
「あのね、これお土産だから、渡しておいて」
「……せっかくなんで上がってください。ワインはありませんが、紅茶でも淹れますよ」
「あの子いつ帰るの?」
「……遅い、です」
 歯切れの悪い返事。ふぅんと相槌を打ってそのまま上がり込む。いつ来ても整頓された綺麗な家だ。わたしの部屋とは大違い。
 ネズとふたりきりになるのはすごく久しぶりだ。昔はふたりであんなにいろんなことをしたのに。
「最近どお?」
「可もなく不可もなく」
「新婚さんの台詞じゃないね」
「そうですかね」
「子どもは作らないの?」
 わたしの問いにネズが咽せた。げほげほと咳をして「い、いきなりなんですか」と吃る。少し無神経な質問だけどわたしたちの仲なら許されるだろう。いつものにこにこのまま、わたしはもう一度尋ねた。「子どもは?」
「……考えて、なくはない、です、けど」
「けど?」
「あいつが……その……」
 濁される言葉の真意はよく分かっている。あの子はそういった行為にまったく興味がないのだ。キスやハグはすき、でもセックスはそんなに。
「へぇ、じゃあ、溜まってるんだ?」
 露骨な言葉でネズに迫れば、彼はまた狼狽して視線を彷徨わせる。ごまかすのが下手くそ。昔から変わらない。
「あの子相手じゃ首絞めたり拘束したり、噛んだり引っ掻いたりできないもんね? ずーっと我慢してるんじゃないの?」
 にい、と自分がいやらしく微笑んだのが分かる。
 椅子から降りて四つん這いでネズに寄っていく。ネズは僅かに身動ぎしただけで止めようとはしなかった。大きく開かれた脚の間に顔を埋めて「ねえ、久しぶりにたくさんしたいでしょ?」と煽ると頬に当たるものがどんどん熱く、硬くなる。返事を待たずにかつて、結婚前にいつもそうしていたようにネズのものを取り出して口に含んだ。舌で先端をいじり、指先で根元を刺激する。口のなかに生臭い体液が広がってゆく。意地悪で彼のすきな攻め方をしないでいたら、焦れたのか髪を掴まれた。「ん、ぐっ」ネズはそれをいきなり喉奥まで突っ込み、後頭部を押しつけて逃げられないようにする。わたしの苦しそうな息遣いに比例してネズの息も荒くなる。ひどいひと、こわいひと、女が苦しむことで自分が気持ち良くなってしまう、だめなひと。
「ん、んんっ、ん゛っ」
 ぶちぶちと髪の抜ける感触のあと、どくんと咥内に精液が弾けた。久しぶりのネズの精液は以前より幾ばくか濃く感じた。
 はぁ、はぁ、とふたり分の息遣いが部屋に広がる。ネズは言葉もなくわたしを押し倒し、服を脱ぐ暇も与えず性急に腰を進めた。咥えただけですっかり濡れているわたしのそこにまだ硬いものを押しつけ、一度大きく息を吐く。
「ネズぅ」
 わたしの甘えた声にネズはぴくりと反応したけれど、やっぱりなにも言わない。あの子の選んだラグがふわふわと腕をくすぐる。
 勢いよく挿入されたものに「あ゛あ゛っ!」と悲鳴が出た。ネズが結婚して以来ずっとしていなかったものだから、刺激が強すぎたみたいだ。「まって、まっ、て、ネズ」肩を押し返した手を払われ、大きな手が首に伸びた。「っあ」わたしの首を包み込む冷たい手のひらが皮膚に沈む。視界に火花が散る。ネズは興奮した顔で恍惚とわたしを見ていた。これがしたかったんだよね、こうしないと気持ちよくないもんね――あの子には、できないもんね。
「……お前は昔から変わりませんね」
 その日からわたしたちの関係はまた始まった。友人が仕事で遅い日、どこかに出かける日、わたしは新婚さんの家に上がり込んでネズと爛れたセックスを何度もした。首を絞められて、唾液を飲ませられて、嘔吐するほど喉奥を攻められて、首輪をつけられて、泣き喚いて過呼吸になるくらい大人のおもちゃでイかされて、溢れるくらいに中に精液を出されて、キングサイズのベッドをいろいろな体液でめちゃくちゃに染めた。
「もぉ、だめ……」
 もう数えきれないくらい気を遣って失神しそうなわたしの上半身を無理やり起こし、ネズは容赦なく奥を突いている。ぐちゃぐちゃと体液の交わる音が意識をこちら側に引き戻す。「ぅ、う……っ」気持ちいい、苦しい、気持ちいい、もっともっとしていたい。首ががくんと下を向く。間髪入れずにネズが髪を掴んで顔を上げさせた。馬に鞭打つような姿勢。
「ねずっ、あっ、きもちい?」
 わたしの問いかけにやっぱりネズは答えない。息荒く、快楽に溺れている顔つき。
 ネズがピストンを激しくするごとにベッドサイドの写真ががたがたと揺れる。あの日三人で撮ったおかしな写真。震える指先でそれをぱたんと伏せる。ネズは気づかなかったようだ。
 階段を登ってくる小さな足音が聞こえるけれど、ネズはそれにも気づいていないらしい。背中に噛み付く歯を感じながら、唾液や精液で汚れたいまのわたしはまだいい友達の顔をしているだろうか、とぼんやり思った。

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