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おやすみサイレース



「ねずさんのて、あったかいね」
 力の抜けた声で女が笑う。
「おまえのても、あたたかいですよ」
 男もやけに柔和な口調で応えた。
 ふたりの顔つきはいままでになく多幸感に溢れている。必要以上の向精神薬と睡眠薬のお陰だ。甘い錠剤を噛み砕いて飲み込んで、胸と頭がじんわりと軟化してゆく感覚が心地よい。
「きょうがおわるよ」
「おわりますね」
 女が身体を丸める。それを包み込むように男は背を丸めて抱きしめた。
「わたし、やっぱりねずさんにあうためにうまれてきたんだね」
「ええ、おれもおまえのためにうまれてきました」
 だんだん呂律が回らなくなり、互いに言葉を覚えたての子どものように覚束ない会話をする。
「ありがとう、らいせでもだいすきだよ」
 いま目を閉じれば、きっと二度と目覚めない。ふたりはそれと知っていて、ゆっくりと瞼を下ろした。ありがとう、おやすみ、またね、だいすき。

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