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玉蜻に縋る



 もう寝ようとスマホを裏にして置いた瞬間、小さな通知音が二度鳴った。日付も変わりそうだというのに、メルマガかなにかだろうか。軽い気持ちでディスプレイを見たらあいつから体温計の画像と「熱が出ちゃって、なんだかさみしいです」という甘えたメッセージ。体温計に表示されている数字は38.2℃で、平熱が低いあいつからしたら大熱だ。隣で眠る妻と、その向こうのベビーベッドを眺める。おれには家族があって、おれなりの予定があって、明日は家族三人で出かける。あいつはそれをすべて知っていてこんなことを言ってくるのだ。「さみしいです」無機質な文字なのにあいつの声に変換されて勝手に脳内で再生される。「ネズさんはあした朝から水族館に行くんですよね、おやすみなさい」続けて送られてきたメッセージは配慮というよりも煽りだった。ああ、そうだよ、でもお前はいますぐおれに来てほしいんだろう。家族を捨てて、お前を選んでほしいんだろう。わがままな子どもめ。おれはベッドからそろりと抜け出し、ジャケットを着てバイクに跨った。「来てほしい」なんて言われていないのに。自分でも頭がおかしいと思う。でも仕方ない。あいつは誘蛾灯で、おれの意志など無視しておれを寄せ付けてしまう。おれがいないことに気づいた妻がどんな顔をするか、あしたどうなってしまうのか、もうそんなことはどうでもいい。どうだっていいんだ。

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