「ごめんなさい、あたし彼氏いるんです。だからネズさんとはそういう関係になれません」 これ以上ないほどはっきりとした言葉でふられた。「そうですか」おれの声はひどく弱々しかった。気持ちを伝えるだけで満足できるかと思ったのに、やはり心のどこかで期待していたみたいだ。彼女の目が見られなくて、その後ろにある喫煙所をぼんやりと見ていた。 「でも、これからも仲良くしてほしいです、いままで通りに。あたしはネズさんのことすごく大切なお友達だと思ってるから……」 小さい手が差し出され、おれたちは大袈裟に握手をした。彼女の手は子どもみたいに熱かった。 そんな風に言って、どうせ誘っても「彼氏に悪いから」と断るんだろう。いままで通りなんて無理に決まっている。だっておれはずっと下心があって、すきな気持ちが抑えられなくて、友達以上の関係になりたくて。明確に「恋人にはなれない」と断じられても、まだ縋りつこうとしている。 「ネズさん、このあいだ話してたホラー映画観に行きましょう!」 いままで通り。 「あしたお休みなら朝までカラオケ付き合ってもらえませんか?」 いままで通り。 「ディナーですか? わ、そこ行ってみたかったんです! ぜひ!」 ――いままで、通り。 「夜景が綺麗なところ? ふぅん、興味あります」 熱い腕が絡みついてくる。胸を押し付けるように身体を寄せて「この辺よく来るんですか?」と囁かれた。 「……おれ、は」 「だめですよ、ネズさん」 なにか言い訳でもしようとしていたら、白い指先がおれの唇を諫める。 「あたしには彼氏がいるんだから、ホテルに誘っちゃだめです。でもネズさんが疲れてて、休みたいなら、休憩してもいいですよ」 淫靡なネオンを背に、意地悪く笑っている。 「一線を越えたらもう二度と会えないですけど、ネズさんはお友達ですから、心配しなくてもいいですよね?」 「……そう、ですね」 おれの声はやっぱりひどく弱々しかった。 - - - - - - - |