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ロックの終わりに


 また今夜も始まった。隣の家からなにか大きいものが投げつけられる音と、お姉さんの泣き声。カーテンを閉めたって音は防げないから、おれはヘッドフォンをつけ音量をマックスにして蹲る。がしゃがしゃとうるさいロックを聴いていれば、お姉さんの声はおれの耳には届かない。おれが大人ならいますぐにでも飛んでいってお姉さんを助けるのに。おれがもっと体格がよければ、お姉さんの盾になれるのに。痩せぎすの子供にできることはなにもなかった。昨日、お姉さんに絆創膏を渡した。マリィの抽斗からくすねたモルペコ柄のかわいいやつ。お姉さんは「ネズくんに心配かけちゃうなんて、だめな大人だなあ」と元気なく笑っていたっけ。それを傷口に貼るでもなくポケットにしまって「大事にするね」と言っていた。本当は手の甲に走る赤い傷跡に貼ってほしかったのに。おれの視線から察したらしく、彼女は申し訳なさそうに小声で呟いた。「……誰にもらったんだ、って怒られるから、ごめんね」「……いいんです」ごめんなさい、とおれも謝った。ランダム再生にしていた音楽が途切れ、ヘッドフォンの向こう側から「ごめんなさい!」とお姉さんの悲鳴が聞こえた。「誰にもらったかは覚えてないの、ごめんなさい、捨てるから、ごめんなさい!」その夜、おれは初めて人を殺したいと思った。

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