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愛は陽炎



 スケジュール帳を眺めていた義姉が「あっ!」と大きい声を上げた。あたしはびっくりして椅子の上で飛び跳ねて、それにびっくりしたモルペコが耳をぴんと立ててこっちを見た。モルペコに見つめられるあたしに見つめられた義姉は「マリィちゃんもうすぐ誕生日だね?」と大きな目をくりくりさせて問う。「うん、来週」「あちゃ、1ヶ月間違えてた……」「いーよ、気にせんといて」「気にするよう、大事な妹なんだから」本当に気にしなくてもいいのに。「ネズくんも言ってくれないんだもん」「あはは、アニキも気にしてないと思うよ」アニキの名前が出たとき、胸がちくんと痛んだ。おかしなことじゃない、なにも不思議なことじゃない。だってふたりは結婚していて、それで。「なにかほしいものある? なんでもいいよ! 誕生日には間に合わないかもしれないけど、なんでも買ってあげる」たぶん服とかアクセサリーとかそういうものをイメージしているのだと思う。あたしの本当のほしいもの。あたしが手に入れたいもの。あたしのものにしたいのは、いまあなたが薬指につけているシンプルなリング。「なんでも、かあ」それを貰えたら、どこか遠くの海に投げて捨てちゃう。二度と見つけられなくしてしまう。そんなことではふたりの関係に傷ひとつつかないと分かっていても。「じゃあ、えっと、マリィに似合う指輪とか、選んでほしいな」嘘、そんなの要らない、そんなのじゃ意味がない。あなたのつけてるそのリングがほしい。ついでにアニキがつけてるお揃いのもほしい。それで、海に行くのについてきてほしい。欲張ってもひとつも叶わないことを知っているあたしはとても賢くて、悲しいほど愚かなのだろう。

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