×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




食虫花



 いま考えると向こうも子供だ。悪意なく、思ったことをそのまま口に出して揶揄っただけだろう。なにを言われたのかはよく覚えていないが、おれはめそめそ泣いて彼らをさらに調子に乗らせた。やめてください、とか、いやです、とか口に出したくても嗚咽が邪魔をして、ただ泣きじゃくるだけだった。たぶん癖っ毛を揶揄されたのだと思う。そのあとお姉さんが「こら、いじめちゃいけません」と割って入ってくれて、慰めながら「わたしはネズくんの髪の毛可愛くて好きだよ」と言ってくれたから。おれはそんな自分が情けなくて恥ずかしくてまた泣いて、泣いている自分への苛立ちからもっと悲しくなってしまった。どうしようもなかった。
「よしよし」
 お姉さんはおれの頭を優しく撫で、落ち着くまでと部屋に入れてくれた。そのとき初めて家族以外の女性の部屋に足を踏み入れた。どきどきした。いろんな匂いがして、どこに目をやればいいのか分からなかった。
「アイス食べる? 何味がいい?」
「あの、えと、じゃあチョコで」
 ふかふかのソファに浅く座って、高鳴る鼓動を押さえつける。まだ少ししゃっくりが収まらないけど涙は出なくなってきた。目元をごしごし擦る。すぐ隣にある姿見に映った自分はひどい顔をしていた。また恥ずかしくなって泣きそうになるのを堪える。こんなに泣いたら嫌われる、面倒くさいと思われるに違いない。
「ごめんなさい」
 だから謝った。嫌わないで、とまで言う勇気はなかった。そんな気持ちでかじるアイスは冷たいだけでなんの味もせず、もったいないな、とちょっと思った。
 ふと、お姉さんがおれの前髪に指を通した。触感を確かめるように親指と人差し指で挟む。おれはどうしたらいいのか分からなくて近すぎる指先をじいっと見た。マゼンタのネイルが妙に目立っていて「こんなに可愛いのにね」と呟かれた言葉はおれに向けてのものなのか独り言なのかは分からなかった。そんな風にされるからアイスをかじることができなくなってしまい、棒を握りしめていると溶けたチョコレートアイスが膝に滴り落ちた。冷たい。どうしようと狼狽えていたらお姉さんの指はいつの間にかおれの耳に移動していて、同じようにやわく揉み始めた。一気に顔が熱くなる。「あ、ぅ」なにか言ってほしいのに、お姉さんはなにも言わない。冷たい、熱い、恥ずかしい。頭がぐるぐるとなって眩暈がし始める。「可愛い」そう囁かれた頃には膝は泥水みたいなべたついた液体でぐしゃぐしゃになっていた。「ぅ、あの、」「ああ、ごめんね、汚れちゃったね」お姉さんは長い髪を耳にかけ「きれいにしてあげる」とソファからするりと降りた。おれの目の前にしゃがみこみ、赤い舌をちろりと出す。蛇みたいだった。
「ぁ、あ」
 生ぬるい、柔らかい舌が膝下から太腿までをゆっくり舐める。よりによってユニフォームを着ていたものだから、太腿から先も捲られて顔が近づいてきた。汚れていない足の付け根まで舌が這ってきて、おれは歯を食いしばる。どうしてお姉さんはこんなことをするんだろう。訳が分からなくなって、混乱して、嫌なのに、嫌じゃないのに涙が出た。さっきと同じように、やめてくださいと言えなくひたすら咽るだけ。
「おね、さ、ん、ぅあ、あ」
「あはは、ネズくん、泣いちゃだめだよ」
 もっといじめたくなっちゃうよ。
 放たれた言葉に背筋がぞっとした。さっきまで慰めてくれていたのに、頭を撫でてくれたのに、優しくしてくれたのに。
「これ、苦しいね、楽にしようね」
 ごまかせないくらい膨らんだところをマゼンタの爪先がつついた。
「気持ちよくしてあげる」
 そこから先の記憶は曖昧だ。お姉さんがおれのものを咥えて、おれはパニックになって泣き喚いて、でも気持ちがよくて、子犬みたいな声をあげて喘いだ。酸欠になりそうだった。いや、なっていたのかもしれない。とても苦しくて、視界もぼんやりしていた。ひどく惨めで淫らな初恋だった。

- - - - - - -